検索窓
今日:34 hit、昨日:194 hit、合計:163,281 hit

第四話 怪盗と街歩き ページ11

.

 つい先ほど名を教えたほどの間柄で、どうして彼はこうも自分に優しくするのだろうか。

 隣で観光を楽しんでいる、よもやつい一時間ほど前に警察に狙われていた風には見えないこの大泥棒を、Aは不思議な気持ちで眺めた。

 何より、Aはキッドが自分を攫った理由を彼からひとつも聞かされていなかった。
 身代金を要求するにしては、攫う人間が違う。加えて彼の行動自体がそれらしくないので、誘拐にしても奇妙だ、くらいの考えしか出てこなかった。

「…どうかしました?」

 神妙な様子のAに気がつき、キッドがその顔を覗き込んだ。
 Aは突然目の前に現れたキッドの顔に少し驚き、それから「いいえ、なんでも」と答えた。

 考えれば、彼がAになぜ優しいかなど、どうでもいいことではないか。命や身体は安全で、盗まれた宝石も今やAの手元にある。

 自分は一体彼の何を気にしているのだろう。
 こんな誘拐じみた状況では平常通りいられないのは当たり前かもしれないが、とにかくどこか調子が悪かった。


 しかし、キッドもAが少し居心地悪そうにしているのには薄々気がついていた。けれど、先程のように、何かあったかと問いかけても、表情を隠してしまうので、為す術がなかった。

 どうにか彼女の思い澄ました表情を、もう少し柔らかには出来ないものだろうか。
 このままだと、名前以外彼女のことを知れないままで終わってしまう。それはどうしても避けたいことだった。


 転機が訪れたのは、街の一角の料理店から、肉の焼けるいい匂いが香ってきた時だった。
 ほんの微かに腹の虫が鳴った。
 鳴らせたのはキッドの方だった。

 Aは夕食を済ませていたが、半日かかりきりで怪盗の準備をしていた彼は違う。朝も昼もろくに食べていなかった。

 思わず顔を強張らせたキッドに、返ってきたのは小さな笑い声だった。

 

怪盗と街歩き侠←怪盗からの選択肢



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (163 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
408人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

- 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:黒猫@さかなねこ | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2019年5月22日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。