My Valentine, 【朔間凛月】 (ページ9)

今日:1 hit、昨日:8 hit、合計:16,786 hit

ハートビート▽ ページ9

それは大人っぽいほろ苦さを持つようで、子どものするような甘ったるいキスだった。
いつもは優しいはずなのに、今日のそれは少し、彼のわがままが含まれていた気がしたのだ。

目を細めていたずらに笑って、すこしおどけた様子で｢Aさん、今の答えは正解ですか？｣なんて首をかしげる。女の私より可愛いってどういうことよ、なんて心の中で苦し紛れの悪態をひとつ。
やはり私の心の中身は全部見透かされている。何故だかそれに怒る気も嫌な気もしないし、全部いちいち言葉にするのも面倒だ。

ただ、私は時々凛月くんのことが分からない。
それは出会ってからの期間の問題でもあれば私が凛月くんほど人の感情に敏感ではないという問題でもある。けれど、もっと彼のことを知りたい、理解したいのも事実なのだ。

本人を目の前にしてそんなことを口に出す勇気こそ到底ないから、代わりに背中に腕を回してぎゅっと強く握ってみる。温かい体温を感じながら、私はようやく正解を口にする。

「凛月くんの正解、です」

「あはは、やっぱり？」

さすが俺、なんて目を閉じてくつくつと笑う姿は零先輩を思わせる。口にしたら怒られるから、決してそうは言わないけれど。

少しだけ訳もなく互いをまじまじと見つめあってから、私は再び凛月くんの胸元に頭を預ける。
波打つ心臓の鼓動がいつもより速くて大きい気がして、照れてるのかな、緊張してるのかななんて思うとそれが移ったかのように私の心臓もひと際大きく音を鳴らす。
相手に聞こえていやしないかと不安になるほどの心音の慌ただしさが、なぜだか段々心地よい。けれど。

「……ごめん。ちょっと、一旦離して」

私を包んでいた温もりが、ふっと消えた。
驚いて投げかけた目線は一方通行で。
私から距離を取ろうと、離れようとする背中に何も声をかけられなかった。