スイートハート▽ ページ3
「あれっ、くまくんにAじゃん。まだ残ってたのぉ？」
芯の通った特徴的な声が、スタジオの扉の開く音に続いて飛び込んでくる。
凛月くんの腕の中に収まっている私を確認して、またかと言いたげな彼はその代わりに盛大な溜息を零した。
「くまくん、彼女を拘束するのも大概にしなよ〜？
特に今日はAだってライブ終わりで疲れてるんだから、幾ら恋人とは言えいちいちあんたに構ってらんないでしょぉ」
「DDDでやらかしたセッちゃんに言われたくない……。
あと俺は今日はな〜んにもしてないよ、今日のAは甘えたさんなんだよね……♪」
「今日は」という部分を強調して言う凛月くんに内心呆れつつ、瀬名先輩のほうをはた、と見る。
いつもはバイク通学のせいか荷物は少ないはずなのに、今日に限って大きな紙袋をいくつも持っていた。よいしょ、と大きな掛け声と同時に紙袋もドサ、と重そうな音を立てて床に置かれた。
「瀬名先輩、どうしたんですかその袋」
「あぁ、これ？」
誕生日はとっくに過ぎてましたよね、遊木君も四月だったはず。
そう付け足すと、瀬名先輩は少し機嫌悪そうに話し出す。
「ほら、今日ってバレンタインじゃん？
ショコラフェスで貰った分のチョコがすっごい量でさぁ、一気に持って帰れないし俺一人でこんな量全部食べる訳にもいかないし、取り敢えずここに持ってきたんだよねぇ。
『一口だけでも食べてください』ってファンの子たち、こぞって俺を太らせる気なのかなぁ？
たとえ一口ずつだとしても全員分食べたらニキビできちゃうっての！日頃の俺の努力が一瞬で泡に帰すでしょお」
まったくもう、チョ〜うざぁい！とお決まりの台詞を吐いて、｢あ、そうだくまくん｣と凛月くんに話しかける。
｢なぁに、セッちゃん｣
｢その袋の中、ファンレターとか学院内の子とかの分除けてあるから食べていいよ。
分かってると思うけど、食べ過ぎは厳禁だから。あとかさくんには絶対あげないでよねぇ、あの子際限なく食べそうだから｣
｢は〜い。どっかテキト〜なとこに隠しとくね｣
あんたは何だかんだかさくんに甘いんだからちゃんと俺の言うこと守ってよねぇ、と念を入れて、瀬名先輩は私に凛月くんと司くん、二人の監視を言い渡す。お礼にあんたも幾らか食べていいから、と付け足して。
お疲れ様でした、と帰路につく瀬名先輩に挨拶をしたところで、凛月くんが後ろから肩にもたれかかってくる。
｢ねぇA、お腹すいた〜｣
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作者名：雫月 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年2月14日 23時
