近寄るな。大嫌いなんだよ。 (ページ25)

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昼休みにカイラにAについて少し話があって保健室に向かった。

「カイラ少し話があるんだか…いない、のか？」

保健室には誰もいない。誰もと言う訳じゃない。Aが僕から隠れるようにベッドのレースの向こうにいた。向こうも僕が気付いている事は分かっているだろう。

「大丈夫か。A」

「だ、大丈夫です。ご心配おかけしました」

少し震えた声。何かと立ち上がろうとすると苦しそうな声が聞こえ立ち上がると大声で止められる。反射的に止まった時に甘ったるい匂いがした。

「まさか、お前…」

「A君！」

大きな音を立てて扉が開いた。エイナが駆け寄りベッドに寝転がせる。さっきより強い匂い。Ωの、あの甘ったるい香り。なのに、どこか強く理性を乱す艶美な匂い。

「マレウス。こっちに来い」

カイラにそう言われ素直に出て行く。最後に見えたAの苦しそうな姿。僕はさっきAを見て何を思った？Ωの匂いに少し当てられているとはいえAを"孕ませたい"と強く思った。Aに対してこんな思いを抱くなんて。まるで…

エイナが少し待てと言うからリリアを呼びに行く。カイラに一応と言われ魔法で匂いを吹き飛ばされた。特に目立つ匂いではなかったが、獣の獣人なら違和感を感じるだろう。リリアを連れ戻ると丁度タイミングが良くAの事を説明された。
Aやエイナ達がしていた事は悪い事なんかじゃない。寧ろ正しいと思う。αとβしかいないこの学園にΩとして歓迎されるとは到底思えない。αは全員Ωの事を下卑な目で見ない。理解が無い訳じゃない。勿論、僕だってそう。なのに、あの強い匂いに当てられた時何を思った。酷く自分が憎く思えた。僕が嫌いなαのように自分が見えた。Ωに対して道具、性処理道具と思っているαに重なって心底気分が悪い。

僕は…何を思っているんだ。

「マレウス先輩！リリア先輩！」

リリアと庭にいると薄い部屋着姿で距離を保って近付く。あの時匂ったΩの匂いはしない。心のどこかで安心した。

「今日は、色々すみませんでした。いつも通りで大丈夫です。変な気遣いとかしないで良いです。夜遅くにすみません。失礼します」

僕とリリアの話も聞かずに自分の話だけをベラベラと伝えて逃げようとしたその腕を掴んだ。その瞬間、腕を振り払われた。

「く、薬切れちゃいます」

怯えた顔でそう言って走る。確かに掴んだあの細く白い腕。微かな熱が僕を何故か喜ばせる。これはまるで…運命の番みたいじゃないか。