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『分かった。冗談って言ったの謝るから離して』
「それは無理です」
『いっ…！』
首元に顔を填めたと思ったら鋭い痛みが走った。噛まれた。痛てぇよバカ。キスマークとかじゃない。ただ噛まれた。あの鋭い歯が首筋に刺さって痛い。
ガンッ。変な音が聞こえて見るとフロイド先輩がいた。すっごいキレた表情で。
「ジェイド。なにしてんの？」
「フロイド。ノックしろといつも言ってるでしょう？」
上にのしかかってたジェイドが殴られて吹っ飛ぶ。フロイド先輩に抱き抱えられたまま部屋から出た。ジェイド先輩は殴られたとこを押さえてこっちを見てた。首筋から少し血が垂れて生傷のままで痛い。
『フロイド先輩』
「喋んな」
めっちゃ怒ってる。なんで。怒りたいのこっちだよ。ふざけんな。怖くないと言えば嘘になる。少しだけ震える身体を悟られないように黙る。あんなの生きてきて起こるわけねぇだろ。漫画の中でしかねぇよ。まじだっさい。男子高校生に迫られて焦って。ビビって。ほんと、みっともない。
優しく椅子に座らせる。私から離れて背を向ける。小さく。弱々しいフロイド先輩の背中を始めてみた。ズキズキ、と心が痛い。
「ごめん」
『なんでフロイド先輩が謝るんですか』
「俺のせいだから」
分かってんのかよ。ふざけんな、って胸倉掴んで叫んでやりたい。けど、そんな泣きそうな声で言われるとこっちだって言う気が失せる。
泣きたいのはこっちだって同じ。勝手に私の中に入り込んで来て踏み荒らして泣いて。ふざけたことしてんじゃねぇよ。
気付いたら異世界にいて。男子高校生に迫られて。こっちだってしんどいんだよ。迫られても飄々として接してた。でも、そんなの上辺だけでほんとは怖くて関わりたくなかった。この子達といると自分が自分で無くなるようで怖かった。易々と触れさせたり、私の中に入り込ませなかったのに。
『ばっかじゃねぇの。ほんと頭悪ぃのな。なんで私なんだよ。ふざけんなよ』
「小エビちゃん…」
『こっち来んな。触んな。もう嫌なんだよ。傷付くのは痛いんだよ…』
触んな、って言ったのに抱き締めてごめん、ってずっと謝ってる。謝って欲しいんじゃない。関わって欲しくない。これ以上の接触は私もこの子達もダメになる。
ぽたり。涙が落ちる。手で拭い切れない涙が落ちて弾く。深く関わってしまえば別れる時に深く傷を抉る。どれだけ辛いかなんて分かってる。想いを持ったまま消えるのは心が酷く痛む。
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作者名：田中 | 作成日時：2020年5月24日 1時
