ロブ・ロイ ページ5
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「ん〜…、ん、ちょ、じゃま…」
「…あー？おお、あ、動かんな、すまんな今どくわ」
その引き締まった細い体がごろんと体勢を整えると、絡まった足があり得ない方向へ曲がりそうになり、激痛が走った。
「いでててて」
「なんでこんなことになってんねん」
そんなの。
そんなのわたしが知りたい。
28歳最後の日に、2年付き合っていた恋人に振られた。笑ってしまうくらい呆気ない最後だった。
彼…今ではもう元彼の思い出や香りがある部屋になんとなく帰りたくなくて、知り合いが働いてるバーに立ち寄った。
_____えっと…あんまお酒知らないんですけど
_____なんかーー、うんと強いやつ
_____大丈夫です、強いんで…
その辺りは覚えているけれど、出されたお酒の名前も味も、その関西訛りの消えないバーテンダーが語るウンチクも何も覚えちゃいなかった。
ぼんやりとした中で、水飲みぃ。と言われたとき、わたしは泣いていたんじゃないだろうか。
なんで、かな。
堪えていたらしい。
案外、ショックだった。
_____失恋したんですよぉ
_____2年間うまくいってると思ってたのあたしだけだったみたい
「…人の気持ちは変わりますもんね、彼が変わったように。Aさんもまた恋をするんやないかな」
大した言葉ではないのだけど、その関西弁がずっとわたしの心に入ってきた。顔なんてほとんど見ちゃいなかったけど、その男っぽい節々の人から“恋”なんて単語がすっと出てきたのが、すごく良いなと思ったのだ。
「うーん、眠たい」
「お帰りになります？タクシー呼ぶ？」
「や…酔い覚ましつつ、歩く…」
「はぁ、せめてもう少し水飲んでってください。そのままじゃ外出せへん」
その会話の記憶はギリ。
けれども、どうして、
スーツ姿の私と、Tシャツトランクス姿の彼が、ぐちゃぐちゃに脚を絡ませて同じベッドで寝ているというのだ。
「二日酔いしてへん？」
私の右脚が抜けたところで、やっと体勢が楽になる。
「後に響かないタイプで…」
「へえ」
「…あメイク落としてない、最悪」
村上さんは目尻にもシワを刻んで笑った。
あ、八重歯。
ベルトまできっちり締まっている自分を見て少し残念だった。
まだ自分の足には絡まっていた痛みが残っていた。
昨日飲んだお酒の名前を聞いた。
彼は少し私を見つめて
小さな声で「ロブ・ロイ」と答えた。
昨日のスーツのまま外を歩く。
携帯を片手にそのカクテルを検索した。
_____貴方の心を奪いたい
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年2月13日 21時
