DUSTBOX0.0 (ページ19)

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アンバー　2 ページ19

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夏になるとまたプールの授業があったけれど「学校のプール汚いから嫌じゃない？」と誰かが言ったらしく、かなりの人が見学していた。

肌が日に焼けた男の先生がそれを注意すると

「生理だからしょーがなくね？先生キモ」と誰かの声がした。同調するように笑い声が起きる。

スクール水着を着たわたしは、滑稽な身体を隠すように水に入った。

見学している女子のうち、どれくらいが本当にその理由で休んでいるんだろう。

初潮が来ていないのがわたしだけだったらどうしよう。わたしはいつか来るのだろうか。いつか大人になれるのだろうか。わたしだけずっと、子供のままだったらどうしよう。

更衣室で水着から制服に着替える時、見えてしまった同級生の胸が膨らんでいて、顔が熱くなった。同い年なのに、全然違う。全く違う。わたしは何かおかしいのかもしれないと思った。

その日の放課後に出逢ったのが、隆平くんだった。

プールの後でキシキシになった髪の毛をいじりながら家へ帰っているところだった。

薄いピンク色の水泳バッグを歩む脚で器用に蹴ってだらだらと進む。

コンクリートに、蟻の行列ができていた。

黒々とした小さな虫が何十匹も一列になってウジャウジャと蠢く。気持ち悪いと思いながらそれを目で追いかける。

蟻の塊は、人の足のそばで止まっていた。
上空からぼたぼたと垂れる液体にそれは群がる。

「あ、アイス」

大人の男の人だった。若いお兄さんに見える。その人の左手にある棒アイスが、絶え間なく溶けて蟻の塊に向かって落ち続ける。蟻はそれに、天の恵みのように群がるのだ。

「え？」

「アイス、溶けて、あの。蟻が」

「うわ、ほんまや。気持ち悪いな」

その人はヘラッと軽く笑った。あまり気持ち悪いと思ってなさそうな声だった。

「ティッシュとか、持ってる？」

「あ、ウェットティッシュもあります」

「ごめんけど、一枚もらってええ？」

わたしは背中のリュックの中から、ウェットティッシュの袋を取り出して一枚引き抜く。それをその人に差し出した。

「ありがとう」

彼の元にティッシュが渡る瞬間、一瞬私たちは繋がった気がしたのに、脚元の蟻の行列は、私たちの間を分断していた。

「夏に外でアイスはあかんなぁ」

ぼーっと蟻を眺めながら呟いていた。
癖のある髪の毛が傾いたお日様に当たって明るく光る。

わたしはと言うと、地面に目を伏せるその人から何故だか目が逸らせない。

「小さいな……」

そんな声が聞こえた。