DUSTBOX0.0 (ページ13)

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富士のアヤメと鷹の爪　3 ページ13

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今年の文化祭で、三年生が引退する。そしたら部長や副部長は、私たちの学年に引き継がれる。

部員みんなの視線や空気が……
わたしにとってとても居心地の悪いものになっていた。

タカコが部長になったほうがいい。

ぶっちぎりで絵が上手いし、
明るくてかわいいし。リーダーシップもあるし。

タカコ、タカコ、タカコ。

誰もそんなことは言ってなかった。けれど誰もがそう思っていたはずだ。顧問と話をしていたって、わたしと錦戸先生が話しているより、タカコと先生の方が似合ってる。

きっとわたしよりもずっと有名でいい美大にタカコは受かるだろう。近いうちに先生やみんなにとどまらず、世間的に認められてしまうかもしれない。

わたしが家に持ち帰って絵を描くことがあっても、タカコは部活の時間にしか描かなかった。その部活も、理由を告げず休むことだって多かった。

だけど、タカコが文化祭用に描いた美術室の窓から見える校庭の楓の木々はとても晴れやかで美しく、爽やかなタッチがとても彼女らしかった。

今いる部員の中で、タカコの作品が一番良かった。
わたしが描いたものより、ずっと良かった。

「次期部長は、このまま藤咲でええのかな？」

文化祭まであと1ヶ月になった頃、部活のミーティングの後に、先生は言った。今日、タカコは部活を休んでいた。

「……タカコの方が上手いです」

「え？」

「タカコが部長になったほうがいいって、みんなきっと思ってます」

止まって欲しかった。口が裂けて仕舞えばいい。それで黙ることができるなら、もう二度とこんなこと喋りたくない。先生の前で、錦戸先生の前で、泣きたくなんかなかった。

「ずっと美術部で頑張って描いてきたわたしよりも、途中から不純な動機で入部して、それでも誰よりも上手くて、明るくて可愛くて、すぐにみんなの憧れになった、みんなタカコが大好きじゃないですか。わたしよりタカコの方が向いてます！」

しゃくり上げながら、ただ醜く傲慢で痛い言葉を捲し立てる。恥ずかしかった。こんなことを言ってもどうにもならない。

先生はなんて言うだろう。

こんなに汚いわたしを、どう思うだろう。もしこうやって泣き喚くのがタカコだったら、泣き顔もきっと可愛かった。わたしは泣き顔だってこんなに不細工だって言うのに。

だけどわかっていた。タカコはこんなふうに喚いたりしない。タカコにこんな汚い感情は似合わない。

タカコは才能も人望も
わたしが欲しいものを全て持ってる。