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富士のアヤメと鷹の爪 1 ページ11

自分の名前が好きじゃなかった。

ライトノベルみたい、とかアイドルみたい、とか

名前についてそう言われるのは、わたしには不相応だと言われているみたいで。


毎朝、鏡に映る自分を見て絶望する。

腫れぼったい一重まぶた、糸のように細くて釣り上がった目尻。鼻は低くて丸くて、口は不機嫌そうにへの字に曲がっている。

ああ、わたしの顔って、本当にコレなんだ。

鏡という物が嘘を映しているものだったらいい。

わたしは本当は、同い年で名前が同じ設定のライトノベルのあのキャラクターような愛らしい見た目をしていればいい。

そしてあの子が、わたしみたいな醜い容姿だったらいいのに。



「いい目、しとるな」

「……え?」



先生は、憧れだった。

子供の頃から絵を描くことくらいしか趣味なんてなかったし、段々とコンクールで賞をもらえるようになると

わたしもこの世にいていいと、私の価値はここにあると、いつしかそれに縋るようになっていた。


「そんな……私なんて目つき悪いし、ひとえだし」

「ああ、ごめんね。見た目のことちゃうよ、セクハラになっちゃうやん。そうやなくて、藤咲の目には世界がこんなふうに見えてるんやなって。そういう意味で、いい目しとる」


恥ずかしかった。

こういうのを、自意識過剰というのだ。誰が私みたいな不細工の目を褒めるというのだろう。

恥ずかしくて、悔しくて、泣きたかった。


「それに、目つきも悪くなんかないと思うよ。……あの、キモイとか思わんとってな?藤咲は可愛いと思うけど」


錦戸先生は、今年うちの学校に来た。若くて、男前で、それで美術科の講師だっていうもんだから、話題の人だった。

昨年度いっぱいでそれまで美術部の顧問をしてくれていた先生が定年退職をされたので、その空いた枠に入ってきたのだ。

わたしは、前の顧問の先生が好きだった。

腰は曲がっていたけれど、優しくて、いつも素敵な洋服を着ていた。

錦戸先生はもう、芸能人みたいにかっこよくて(まあ芸能人なんて実際に見たことないけれど)シンプルでお洒落な格好で、それも気に障った。

女子から黄色い歓声を浴びるほど人気なのに愛想が悪くて、それもまたミステリアスだなんだと騒がれて、地味でアニメや漫画のオタクが多かった美術部に先生目当ての派手な部員が増えた。

…もっとも、そういう子たちは絵なんて描かなかったし、先生に相手にされないことがわかると早々に幽霊部員になっていったけれど。

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作者名:ねこひこ | 作成日時:2020年2月13日 21時

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