スレチガイ01 ページ25
「休憩よ!」
瞳子監督の指示で練習に励んでいた俺たちはわらわらとベンチに移動する。そこには、部員にタオルとボトルを手渡しているAがいた。それを見てヒロトが驚いたように言った。
「……何でお前がいんだよ」
「今日、部活休みだって聞いたから、マネージャーの仕事やってもらっているの」
それが聞こえた玲奈が間髪入れずに答える。
ヒロトとAさんに接点なんてあったかな、と不思議に思い、知り合い?と聞いた。
「知り合いっつーか、俺の許婚」
「え?」
得意げにAの肩に腕を回すヒロトの言葉に一瞬フリーズする。
いいなずけ?いいなずけ……許婚!?
「重い。ていうか、許婚って言ったって親同士が勝手にやっただけでしょ。私はヒロトと結婚とか絶対嫌」
Aさんは心底迷惑そうに言うが、俺としては心底気が気でなかった。
ああみえてヒロトは優しくていい奴だ。となるといつAさんがヒロトに惚れてもおかしくない。
悶々と考えていると、首筋に何やら冷たい物が当てられ反射的に肩が跳ねる。バッと振り向くとしてやったり顔でこちらを見上げるAさんがいた。
色々と心臓に悪いよこれ。
「はい。基山君まだ貰ってないよね?」
「あ、う、うん。ありがとう」
何ごともなかったかのように手に持っていたタオルとボトルを渡された。……まあ、そうだよね。これくらいで動揺してる俺がおかしいのかな。
でも、そうかぁ。Aさんがヒロトの許婚か。……勝ち目なんてない、か。まさか人間不信だったヒロトに先を越されるとは思いもしなかった。だけど許婚なら仕方ない。ヒロトもAさんのことが嫌いってわけではなさそうだし。
ヒロトなら、きっとAさんを幸せにできる。
そう信じて、俺は自分の想いにきつく蓋をした。
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作者名:十五夜だんご | 作成日時:2019年11月8日 17時