雨の日のアルタイル (ページ5)

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「傘、お預かりしますね」

私の傘から雨粒を落としてお店のにある傘立てに掛けて干すと、"よろしければお使いください"とタオルを差し出してくれた。

私よりも、店員さんの方が濡れているのに。

「すいません、無理言っちゃって」

……この人、オネダリが上手いんだ。

まんまとハマって、行く宛てもない私はお店の中。

『いえ、ありがとうございます』

「どこでもお好きな席にどうぞ」

店内はカウンターの一番奥の席に男性が1人だけ。

私は前来た時に座った一番奥のテーブル席を選んだ。

「お客様からのお褒めの言葉が嬉しくて、どうにかしてお礼がしたくて！でもなかなかお話するタイミングがなくて…強引に誘ってしまってすいません」

『お礼だなんて、そんな』

「あの、また同じく少ないメニューなんですけど、フードメニューでお好きなものお選びください。サービスします！」

『……じゃあ、お言葉に甘えて、ホットココアとプリンお願いします』

「かしこまりました！」

糖分を欲していたのか、甘いものを頼んだ。

そういえば、ご飯食べてなかった。

これからどうしよう。

今日の宿、明日の服、これからの家

家に置いてきた自分の荷物

勢いで家を飛び出してきたけど、彼氏を追い出せばよかった。

あぁ違う、彼氏じゃなくて元彼だ。

……私が甘やかしすぎたのかな。

スマホを見ても、連絡は入っていない。

ある程度長く付き合って同棲してたのに、そんなもんか。

呆気ないなと思ったと同時に、無意識でため息が出る。

「これ、よかったらどうぞ」

色々考えていると、テーブルの上に置かれたのは、キャンディのように包まれたチョコレート。

顔を上げると、さっき一番奥のカウンター席に座っていた男性だった。

「お疲れさまです」

フープピアスを揺らして、優しく笑う。

あまりにも綺麗な顔立ちに圧倒されて、大きな目に吸い込まれそう。

『……あ、ありがとうございます』

「いいえ」

席に戻って行くと、カウンター席の前でココアを入れている店員さんと仲良さそうに話していて

あの人、きっと常連さんなんだろうなぁ。