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健永くんと別れた後、私は結婚した。
夫となった人は寡黙だけど優しい人で、仕事もこれまで通りしていいとのことなので少し安心した。
職場では私の結婚をお祝いしてくれた。
既婚者の瑞穂さんからは何か悩んでることがあったら言ってねと言われた。
多恵ちゃんからはドキリとする一言があった。
「そういえば前、Aさんのこと連れていった可愛い男の子はAさんの何だったんですか？」
「あの子は私の甥っ子。可愛かったでしょ」
「はい。そうかAさん兄弟多いんでしたっけ」
「そうそう」
だけど心の奥底には彼がいて、一生愛してると思うのは彼だけだなと思った。
結婚をして1か月後ぐらい経った頃、とある人から連絡をもらった。
「もしもし」
「横尾くん？」
電話の主は横尾渉くんだった。
彼は渡辺家という由緒ある家に仕えていて、私の大学の同級生である。
「その様子だと聞かされてないんだな」
「何が？」
彼の声の響きに不穏なものがあった。
「お前の可愛がってた甥っ子、入院してるんだって」
「えっ？」
スマホを持つ手が震え始める。
「すぐ命に別状があるわけじゃないけど……そういうこと」
つまり彼は精神を……？
「私会えないよね」
「うちの佳乃お嬢様も会えないみたいだからAは殊更でしょ。それに金輪際会えないんでしょ」
横尾くんとは秘密を共有する仲で、彼は健永くんのお友達の佳乃さんに仕えているから、大体のことは把握されている。
「…………」
私は気付いたら膝から崩れ落ちていた。
明らか原因は私で、関係がバレてしまったから……。
「Aと彼の決断は間違ってないよ。早かれ遅かれこういうことになってるわけだから」
「それはそうなんだけど……」
頭で考えていることと心で思っていることの乖離が進んでいく。
「横尾くんも気を付けてよ。どこで誰が密告するか分からないから」
「……ああ。分かってる」
電話が切れた瞬間、溢れてくるのは涙だった。
「健永くん……」
今すぐ彼に謝りたい。
だけどそんなことさせてくれないだろう。
私もあなたが全てだった。
だけどそれは許されないもので……。
愛してる、だけど私たちは永久に交わっちゃいけないの。
私はその場で泣き崩れるしかなかった―――。
END
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作者名：ユタカ２ x他1人 | 作成日時：2021年9月11日 17時
