キミのとなり 【Hiromitsu.K】

Episode43 ページ43

スペイン料理の店で行われた飲み会は、普段から仲の良いメンバーだけが集まったこともあってか、序盤から食事やお酒が進み、乾杯から１時間後には仕事の愚痴や不倫が囁かれる隣の部署の課長と女子社員の噂話、そしてそれぞれの恋バナへと展開していった。

会社で言われた通り、私にも恋バナの火種が飛んで来そうになったが、慌てて入社１年目の男の子へと話を振ると、彼の大学時代の悲惨な恋バナが始まり、みんなの興味はそちらへと注がれたので、私は密かに安堵の息をついたのだった。

話が盛り上がるのに比例して皆のグラスもどんどん空いていく。

普段はそんなに飲まない私も、その場の雰囲気に飲まれてしまい、何杯目かのグラスを空けた後、「ちょっとトイレ」と席を立った。

トイレを出てほんの少しスッキリした意識を取り戻すと、改めてお洒落な店内を見渡す。

廊下の壁には100本以上のワインの空き瓶が埋め込まれるようにディスプレイされており、その美しさに私はしばらくそれらに見入った。

その時、背後から「A…？」と聞き慣れた声がして、思わず息を呑む。

約２年半聞き慣れたその声は、振り向かずとも誰のものか分かってしまい、脈が速くなるのを感じた。

「A」

もう一度名前を呼ばれ、私は観念したように振り返る。

「やっぱり。離れたところからでもすぐにAだって分かったよ。久しぶりだな」

そう言って微笑んだのは、予想通りサトルだった。

「…久しぶり」

動揺を悟られないように微笑み返して見せたがうまく笑えず、わずかな自己嫌悪と共に俯いた。

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