※第２２話 ページ24
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運ばれた日以来、安室透が姿を見せることはなく無事に退院の日を迎えた。
彼ほどの立場なら、俺の経歴なんか一日もあれば分かったはず。
あくまで'表面上の'だけど。
顔を見せないということは、まだ掴みきれてない、ということだろうか。
ゴーグルを装着し、灰色の外套を羽織りフードを目深に被る。
カラコンが無いことを除けば、やっと普段通りのスタイル。
医師や看護師達に見送られ、運ばれてきた時とは違い、堂々と病院の正面玄関から出る。
目の前には一台の車。
見覚えのある。
鮮やかな赤いマスタング。
ーーどくん
胸の鼓動が一際大きな音を立てた。
「退院おめでとう、高崎さん」
後部座席の窓から顔を出したコナンのいかにも子供らしい高い声が耳に届いた。
「ーーあぁ。ありがとう」
返事もそこそこに、前方へ視線を戻す。
コナンには悪いが、'今'俺の興味を惹いているのは運転席に座るハイネックの男。
襟足の伸びた亜麻色の髪。
細められた瞳。
'沖矢 昴'
探るようにじっと見つめていると、運転席の窓が開いた。
瞬間、微かに匂った煙草の香り。
懐かしさに目を細める。
「高崎さん、ですね。コナン君から話は聞いてます。僕は」
「知ってる」
吐き捨てながら、胸倉を掴み上げた。
眼鏡の奥で僅かに見開かれた緑色の双眸が、俺を映す。
「・・・死んだかと思った」
相対した二人のNOC。
繋がらない電話。
NOCリストから消えた赤井秀一の名前。
状況が全て、景光と重なった。
きっと俺は今、酷く情けない顔をしているのだろう。
コナンが驚いたように目を見開き、じっと俺を見ている。
沖矢の手が胸倉を掴む俺の手に重なった。伝わる温もりに、視界が歪む。
首元を押さえれば、小さな電子音。
「とにかく車に乗れ。話は工藤邸に着いてからだ」
久し振りに聞く彼の低音。
了承の意を込め小さく頷いた。
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作者名：鐘稀 | 作成日時：2019年11月2日 21時
