Episode27 -5 ページ12
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「ご存じなのね」
妖艶に赤い唇をきゅうとあげて理子さんが笑う。
二宮さんが私を庇うようにして前に出る。
「どちら様ですか」
「貴方には今日は要はないのよ。私が用があるのは後ろの彼女だけ」
カツリ、理子さんが履いたピンヒールがアスファルトを叩く。
か細い音が狭い路地に反射して響いた。
「ごめんね。私も好きでこんなことするわけじゃないんだけど、魔王様のご命令だから」
「魔王様……」
聞き覚えのある表現に私は口の中だけで言葉を転がす。
以前理子さんと翔さんがしていた会話に出てきていたのを思い出しながら、ぎゅうと手のひらを握りしめて理子さんを見返した。
「私に何の御用でしょうか」
もしかして、ここのところ付けられているかもしれないと思ったのって……。
「うん、用があるのは私じゃないんだけどね。ええと、貴方、その子を渡してもらえるかしら」
「そう言われて渡すわけないでしょう」
二宮さんが毅然と言い放つ。
二宮さんの返事を聞いた理子さんは、さらりと黒髪を揺らしながら一度だけ首を振った。
「そう、それは残念……じゃあ、仕方ないわね」
理子さんが肩をすくめる。
それから背後に止まった車の窓ガラスをコンコンコンと細い指の背で叩いた。
ガチャリとドアが開いて中から数人の黒服を着た男の人が出てくる。
「戸羽さん」
何歩か後退した二宮さんが私の手首をつかんだ。
「逃げよう！」
「は、はい！」
引かれるまま走り出すけれど、背後からは理子さんの「捕まえなさい」という鋭い声が飛ぶ。
あっという間に距離を詰められて男の人の手が肩をつかむ。
「離して！」
「戸羽さん！…く、離せよ！」
「二宮さん…！」
強い力で二宮さんと引き離される。
こちらに手を伸ばす二宮さんに私も手を伸ばすけれどその手は当然届かない。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年6月1日 10時
