Episode22 安心 ページ24
.
バイクはホストクラブの裏路地、先日花を届けに来た二重扉の前に停車した。
エンジンが切れると体中に響いていた振動がなくなって何となくほっと息をつく。
「とりあえず中にどうぞ。翔さんまだ仕事中だと思うんで」
「お邪魔します」
先日は窺うことのできなかった扉の向こう側。
松本さんに案内されるまま通されたのはバックヤードと思しき小さな部屋だった。
雑多な荷物の中に小さな一人掛けソファが一つ置かれている。
「狭くてすんません。ここで待っててください。そのソファ翔さんに言われて用意したやつなんで、座ってていいですよ」
「わざわざ用意していただいたんですか？すみません松本さんだってお仕事中なのに…」
「いいんですいいんです。翔さんの言うことに逆らったらこの店では生きていけませんから」
冗談っぽく笑いながら松本さんはひらひらと手のひらを振る。
見た目だけで見ると少し怖く見えるかもしれないけれど、笑うと人懐っこい笑顔になるのが松本さんの特徴だと思う。
その笑顔にちょっと安心して、ようやく口元から力が抜けた。
「ありがとうございます」
「それじゃ、翔さんに声かけてきますね。たぶんすぐに手ぇ離せないと思うっすけどね」
パタリと松本さんが出て行った扉が閉まると途端に部屋が静かになる。
高ぶっていた心臓が落ち着きを取り戻してやっと少し安堵した気持ちになってソファに腰掛ける。
沈み込むように身体を預けてしまうのは申し訳ない気がしたけれど、身体は言うことを聞かず力が抜けるように背もたれへと身体が沈んでしまった。
「はぁ…」
誰もいなくなったからこそ吐き出すことのできたため息はぼんやりと一人きりの部屋に溶けていく。
両手を重ねて握りしめてみる。
冷え切った手の震えはもう止まっていた。
「……翔さん」
もうすぐ会える。
でも迷惑をかけてる。
わかっていてもつい翔さんの名前がこぼれた。
でもきっと忙しいんだろうし翔さんに会えるのはいつになるかわからない。
そもそもこうして押し掛ける形になってしまっていることがすでに忙しいはずの翔さんも、松本さんの仕事も邪魔している。
やっぱり電話しない方がよかっただろうか。
……あれ？
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 984人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
iCHiKA(プロフ) - shiさん» 一気読みとはありがとうございます！ドキドキしていただけたとのこととても嬉しいです。更新がゆっくりではありますが引き続きお楽しみいただけるよう頑張らせていただきますね。 (2020年5月19日 20時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - はじめまして。一気に読むほど話に入り込み集中しました！！紳士的な翔さんから裏の顔まで…ドキドキして楽しみました！また次回の更新楽しみしています！ (2020年5月18日 20時) (レス) id: 36d011e7a3 (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - あまさん» ご心配いただきありがとうございます(^ ^) だいぶ更新を滞らせてしまいましたがおかげさまで体調はずいぶん落ち着きました。優しいお言葉をありがとうございます。更新はゆっくりになるかもしれませんが、お付き合いいただけたら嬉しく思います。 (2020年5月18日 20時) (レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
あま - 落ち着いたんですね!! 本当に良かったです!! これからも、iCHiKAさんのペースでいいので、待ってます!! どうか、無理されないように頑張ってください!!! (2020年5月17日 23時) (レス) id: 621034dbe1 (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - ともさん» なるほど、その手もありましたね！ですが今回のはただの電話の描写なので複雑なものではないのです(^◇^;) 一応、迷惑をかけている現状においてヒロインちゃんの自信のなさを「聞き間違いじゃないかな？」という描写で表現する際の描写アイテムのひとつです。 (2020年4月22日 22時) (レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年4月7日 13時
