僕が君の傘になろう。３

届けたい。１ ページ4

亮side


雨と雷のせいか、
停電で信号が止まったせいか、

ひどい渋滞に巻き込まれてもうて、
なかなか進まれへん。


仕方なく、
車は途中のパーキングに乗り捨てて、
雨の中を駆け出す。

交差点の赤信号に阻まれて、
立ち止まった俺の目に飛び込んできたんは、


会社の目の前に横付けされた、
ハザードをたいた、
見覚えある白いセダン。


確か、あれは・・・


車のドアが開いて、


黒い傘に隠れた高橋が、
運転席から降りて来た。


ビルの自動ドアから出てきたAは、
母親と一緒やった。


まだ事務服のまんまで、
何も持たずに、
母親に手を引かれて、

迷いなく、
高橋の元へと歩み寄って行く。


雨に煙る交差点。


赤信号に阻まれた俺の姿は、
Aには見えてへん。


「A！行くな！」


声を枯らして、叫んでも、届けへん。


盲目的に母親を信じる、
まるで幼い少女のように。


促されるまま、

吸い込まれるように、
俺の前から、消えようとしてる。


信号が青に変わった。


水たまりを避けもせず、
飛沫をあげながら、

ただ、愛しい人を取り戻すために、
交差点を駆け出した。


「A！A！A！」


届いて。

雨なんかに、
まぎれずに、
まっすぐに。


「A！行くな！」


・・・届け！


車の扉が閉まる寸前で、
Aが俺を振り返った。


・・・時が、止まる。


「りょ、お・・・？」


Aの唇が、かすかに動いた。


雨の音も雷の音も遠のいて、
静寂だけが、俺らを包み込む。


「どこ行くねん。
Aは、ずっと俺んそばに、おればええ。
どこにも行かせへん」


どれだけ叫んでも、
聴こえてへんのは分かってる。


けど、俺の声はきっと、届く。

誰より、愛しい人の心に。


Aが繋がれてた母親の手を、
そっと、解いた。


迷った目をして、
母親と俺とを見比べてる。


「A、俺んとこ、おいで、」


俺の声をかき消すように、

母親の仮面を被った、
魔女のような女が、


「あんたは、この高橋って男と結婚するの。
一生、虐げられて生きる運命なの！
勝手に幸せになるなんて、許さないから！」


金切り声でそう叫んだ。


その言葉は、

とてもやないけど、
実の親のものとは思われへん、

残酷なもので、
思わず耳を塞ぎたくなる。

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