8.耳がいい故に ページ8
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__"『我妻くんに、話があります。最後のお願いです。教室で、ここで、待ってます』"
よく聞かないと、聞こえない声だった。
細くて、弱くて、脆い。
なんとも自信の無い、小さい声。
でも俺の耳にはちゃんと届いた。
"我妻くん"
そう呼ぶのは、彼女しかいないから。
「じゃあね、善逸さん」
『うん、また明日、禰豆子ちゃん』
時計を見ると、もう既に夕日は俺を照らしていた。
4時。今急いでいけば、間に合うだろうか。
さっき来た道を再び走って駆け抜ける。
間に合え、
間に合え。
俺も、Aに伝えなきゃいけないことがあるんだ。
ずっとAを避けていた理由。……本当は、っ、誰よりも、君が好きだってこと。
"最後のお願い"
きっと、俺を諦める前、最後の。
『はぁ、っ、はあ、』
ごめん、
ごめん。
本当は恥ずかしかった。
いや、怖かった。
俺の方が君を想う気持ちが大きいから、ひとつの選択ミスで君が離れてしまうんじゃないかと。
本気で好きになったのが君が初めてだから、この感情に焦りや不安、いろいろあったんだ。
だから、俺らしくもなく、避けていた。
今思えば、本当に最低だと思うよ。
"我妻くん"
精一杯の声で俺を呼んでくれる君の姿は、誰よりも可愛く、抱きしめたかった。
他の男になんて見せてあげたくない。……そんな、独占欲ばかり。
だからって無視。最低だ、本当に最低だ。
謝っても謝りきれない、だけど、誰よりも好きなんだ。君が。君だけが。
君が俺を諦めてしまう前に、言わせて。
これからはもう逃げないから。
怖かった独占欲とか、いろんな感情とか、もう隠さないから。まだ、好きでいて。いや、また好きにさせるから。
今度は、ちゃんと
君の隣にいても、恥ずかしくない彼氏に。
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凪 - 面白かったです! (2020年2月1日 22時) (レス) id: b575dccd32 (このIDを非表示/違反報告)
よる - 超苦しい!なんかやっぱりきゅうってする!…炭治郎ぅう!私は好きだゾォォオ!! (2019年12月23日 1時) (レス) id: bbe87bcae1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふわふわべあー。 | 作成日時:2019年12月7日 21時