たとえあなたが人でなくても 下

59話 ページ10

逢引の時間は以前に比べて少なくなった


と言うよりは、
月に2回だったのが1回に減っただけですけれども
私にとっては重要な事ですわ

だって愛しい人との時間が減ったのよ？
悲しいじゃない






この前なんか朝日が昇る前に帰ってきたわ

無惨様は陽の光に当たると跡形もなく
塵となって消えてしまうのですから
気をつけて欲しいものだわ

何も知れずに帰らぬ愛し人を待つのって
相当の精神が削れることをご存知？


たまに苛立ちながら帰ってくるものだから
私まで緊張してしまう





その代わりに時間ある時は、
長椅子に座ってゆったりしたり

無惨様の部屋のベッドで彼が内職しているのを
視野に入れながら刺繍をしたり子供のために
洋服を編んだりしている


ひと休憩すると、必ず私の元に来て
抱きしめてからベッドへと倒れ込むの

そして私は彼の頭を撫で

お話をする





『お腹の子に声をかけてみます？
もう聞こえてるって話ですよ』

｢なんと声をかけたら良いかわからん｣

『何でもいいのではないかしら。
ほら、パパですよーって』



割に合わないかしらね

何かと葛藤しているようで、
その間に私は話しかける




『パパはね、恥ずかしがり屋さんなんですよ。
正鬼、美鬼。…………いま反応しましたわ！
この子はもう自分の名前を覚えてるみたいね』




今ので何かを決意したのか、
私のお腹に手を当てて

お腹の子に話しかける


それはそれは、なんともぎこちなくだった



｢お前の父である無惨だ。父上と呼べ｣

『ふふっ、そんな畏まっては
この子も困ってしまいますよ。』


案の定、何も反応はない

渋々と恥を忍び、
恥ずかしさのあまりか顔を紅潮させて言った




「パパだ」




……と。



「蹴ったぞ、Aっ」

『えぇ、そうですとも！この子はとても賢いわ』


『男の子と女の子、
どちらが産まれて来ると思います？』

「さぁな。その前に もしかしたら鬼の子が
生まれるかもしれない」

『鬼の子でも構わないわ。
だってあなたの子ですもの。愛しますよ』




表情筋が働いていませんよ

そんな緩んだお顔でいいの？




「Aしかいないからな」

『そうですか』



「男だったら強く育てよう。私よりもな」

『きっと無惨様みたいに凛々しい人になるわ』

「女だったらお前似だな。可憐で可愛らしさと
美しさを兼ね備えた美女になるだろう」

『私のことをそんな風に思ってましたの？』

「あぁ」

『なっ……やめてください、照れてしまいます』

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