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「大神。」
次の日、部活時間に風丸は大神に声を掛ける。風丸の目は揺らぎなく、真っ直ぐに大神を射抜いた。
「練習を頼む。」
『いいよ。』
昨日は失敗の連続により中断された“炎の風見鶏”。全員が固唾を呑んで見守る中、その技は思いの外簡単に成功した。
それに、以前よりも威力が増している。
「……よし!」
成長を喜んでいる。心が弾んでいる。ボールを追いかけることが、仲間と共に在ることが、まるで陸上を始めた頃の様に楽しいのだ。
風丸一郎太は何故サッカーをするのか。
それは……それはきっと───。
『風丸、良いタイミングだったね。』
「ああ、お前もな。」
何度も、何度も練習を繰り返した。強くなれるように。
休憩に入れば、大神と風丸が2人肩を並べてベンチに座る。ぐっとドリンクを飲み干し、風丸はタオルで顔を覆った。
「……俺、宮坂に言ったんだ。試合を観に来てほしいって。言葉だけじゃきっと分かってもらえないだろうから。」
『へぇ。』
大神の空返事に風丸は思わず笑った。構わず続ける。まるで独り言のようだが、大神は確かに耳を傾けてくれている……何も言わずとも、長年の付き合いで何となく分かった。
顔を上げる。吹き抜ける風が心地良い。
「俺はここに残るよ、お前たちと一緒に全国へ行く。」
『それじゃあ、もう心配はない訳だ。』
「ああ……俺たちの“炎の風見鶏”、次の試合で決めてやろうぜ!」
風丸はベンチから立ち上がり、大神を振り返った。
大神からは風丸の姿が逆光になっていて、表情を確認する為には目を凝らさなくてはよく見えない。
しかし、その目に宿る光だけが異様に強く輝いて見えた。
『……楽しそうだね。』
「ああ、楽しいよ!お前たちとサッカーするのは!」
今度は見えた。ただ純粋に、サッカーを楽しんでいる幼馴染の笑顔が。
───ああ、宮坂くん……だったかな。
どうか今の彼を見てやってほしい。
君の目には、今の彼がどう映ってくれるだろうか。
次の試合がとても楽しみだ。
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鷹羽(プロフ) - コメントありがとうございます~!!!好きと仰っていただけて感激です^^ノロノロペースではありますが、更新させていただきます! (2021年7月15日 18時) (レス) id: 338e0ddf16 (このIDを非表示/違反報告)
名前はまだない - コメント失礼しますm(_ _)m 主人公の設定とかめちゃくちゃ好きです!!鷹羽さんのペースで頑張ってください!更新待ってます! (2021年7月14日 19時) (レス) id: 567784a46c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鷹羽 | 作成日時:2021年3月30日 1時