ロスト・パピヨン (ページ5)

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『お母さんに何か言われても
一呼吸おいて笑い流せばいいのよ、ね？』

…お姉ちゃんは、お母さんに嫌味を言われることなんて無いくせに。

いつもいつも、言われるのは私じゃない。

勉強して取った高い点数も、心を込めて色をつけた絵も
なにをしたって、それが私じゃ意味がなかった。

お母さんは、黙って私のを見た後にいつも決まってこう言うの。
｢アンナは？？見せて？｣って。

結局全部、求めてるのはお姉ちゃんだ。

…もう今日は何を言われたって、慰めの言葉は全部
自分への嫌味にしか聞こえないみたいだ。

『お母さんには私から言っておくから、』

｢いいよ、｣

『え…？』

｢お母さんお母さんって、お姉ちゃんは結局お母さんのご機嫌取りたいだけじゃない、

それを私に押しつけないでよ、！｣

『ちが、』

｢何しても何言ってもため息つかれる私の気持ちなんて分からないでしょう？！

いつもお母さんの目はお姉ちゃんを見てて、お姉ちゃんもお母さんのご機嫌ばっかり気にして、遠回しに私に機嫌悪くさせないようにして、｣

滑ってしまった口は、ハッとした時にはもう手遅れで

お姉ちゃんの目には、確かに水の膜が張っているのが分かって

『…そうね、ごめんね？

お父さん、今日は帰ってくるんですって。久しぶりだから顔出しておいで。』

…ああ、私最低だ。

いつも、何があってもお姉ちゃんだけは味方でいてくれるのに。

こんな悲しそうな顔、見たことない。

でもそうさせたのは、紛れもなく
思ってもいない言葉で傷つけた私だ。

黙ってドアを開けたお姉ちゃんは、こちらにはもう顔を向けなくて。

代わりに『早く出ていってくれ』と
華奢なその背中が言っていた。

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