Nectar【川村壱馬】

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覚えているのは、店内に広がる綺麗なフェイクだけ








どんな容姿で、どんな性格なのか。









今、彼のキャラクターを知る術は何処にも無い









「あ、これ今日買ってきた珈琲豆よ」









ブルーマウンテンと、もう一つ、名前を忘れてしまった珈琲豆が入った紙袋を手渡す









マ「お、オリジナルブレンドかな？
…どれどれ、試してみようか」









開店前の珈琲店









レトロな雰囲気のカウンターの椅子を引いて座ると、為す術の無さが身に染みて









はぁ、と小さな溜息が漏れる









マ「Aをそんな風にさせるなんて、
相当美しい声で歌うんだね、その男性は」









優しい色味の茶髪と、生やした口髭がトレードマークのマスターは、豆を煎りながらそう口にした









「ただ美しいだけじゃ無くて、魅力的なの」









この広い世界の中で
貴方という存在を知る事が出来て良かった









欲を言うならば…









いつか、貴方の歌声をすぐ傍で聴いてみたい









「でも…恋して一瞬で玉砕よ？会えないんだもん」









着替えに行こうと、椅子から立ち上がる









マ「んー、俺の知ってる人だったらなぁ…」


「いくら顔の広いマスターでも無理よ、
LDH、の人って言ってたもの」


マ「…そうか」









ドリッパーの真ん中に、
円を描きながらお湯を注ぎ入れる









「…やっと出逢えたと思ったんだけどね」









カーテンの奥にある小さなフィッティングルームのような場所へと歩みを進める









ワイシャツを羽織り、ボタンを留めて鏡を見た









髪の毛を緩く結んでポニーテールにし
黒のエプロンをつけるのが仕事のスタイル









「よーし」









カーテンをくぐってカウンターへと出ると、マスターの淹れた珈琲の香りが広がって









「良い香り…あれ、お客様？」









誰も居ない先入観から、普通の声のトーンで話してしまった口元を慌てて押さえたら









マ「LDHのお客様、だよ」


「え…？」









窓際に座る人物が此方を振り返ったのと同時に、マスターはニコリと笑いかける









マ「哲也、ブレンドあるけど飲む？」


哲「良いんですか〜？飲みたいです是非」









あれ…









「…哲也さんってLDHの人なんですか？」


哲「…ちょっと、嘘でしょ〜笑」









哲也さんとマスターは
顔を見合わせクスクスと笑った



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