ちぐはぐな[リズム]は歌い手様に好かれました。Part4! (ページ41)

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166.伝えてページ41

蜂蜜side

走る。ただひたすらに走る。

後ろは振り返らない。

何かの拍子に、涙が溢れてしまいそうで。

そらるさんと話していたら、離れづらかった。

このまま、皆が私を守ってくれるんじゃないかって。

でも、

『それじゃっ、はぁっ…駄目、なんだっ』

歯を食いしばる。

そんな、皆を危険に晒すような事、私にはできない。

どれだけ私が弱くても、どれだけ世間知らずなお嬢様でも、それだけは絶対にできないから。

走って走って走って走って走って走って。

とある所まで来て、立ち止まる。

そこは、正美が襲われた公園。

公園に植えられた低木の影に隠れるようにして置かれたバッグ。

数日前に、シェアハウスに戻らずとも松衣家までいけるようにと洋服など、最低限のものを入れてある。

そのバッグを肩に掛け、ふと夜空を見上げる。

都会の光に隠れて星は見えない。

『…終点もないような、果てしない闇の向こう────』

ふと口ずさむその歌。

フラッシュバックする、脳裏に焼き付いた彼の顔。

笑った時の細くなった目が、困っているときの眉の下がり具合が、彼の作る歌が、楽器を弾くときの真剣な目が、なにより彼の歌声が。

『大好き、だ』

あの日から、泣かないと決めたはずなのに。

泣いたら余計離れづらいって、分かってるはずなのに。

涙はとめどなく溢れていく。

そうだ、彼に、皆にまだ何も伝えられていないんだ────