【０】遠望の風音 [ｶﾉﾝ] ＊Prequel＊

＊ ページ47

だがその場所は思って居たよりずっと遠くで、確かに街の入り口の
白の雪の中に、雪とは別の何かが埋もれているのは見えるが……すっと目を細めた。

──それでようやくわかった事に、今度は目を見開いた颯太が声を上げる。



「……あ、あれは……! 人が!?」

「人……人が倒れているの!? 颯太、どうにか自宅まで運べませんか?」



慌てて駆け寄りながら言葉を交わしていたが
見えたものの下に辿り着いた二人が目にしたのは、やはり人の姿。

目を閉じているので顔立ちは明確でない、赤髪の男。
防寒の為かマントを羽織っているが、これでは──颯太は男の傍らに膝をつく。



「やってみます!」

「ダーン草は私が持ちます、急いで!」





〜･〜･〜





颯太が男を背負い、何とか家に辿り着くとすぐにその男を客室のベッドに寝かせた。
なるべく部屋を暖かくさせ、いつでも水分補給が出来るように水を備え付けて。

そうして数時間もすれば、男は静かな内にふと目を覚ましたのだった。



「──大丈夫ですか?」

「…………ここは」

「北の地へいらした事は覚えて居ますか? ここは街の当主の屋敷内です」



ずっと付きっきりで居たAと颯太の二人に声かけられた男は
状況を確かめんと、ゆっくりと体を起こす。

どうやら動揺しては居ないようだが、対して相当な命知らずと思われる。
目覚めて即座に起き上がる行為はあまり勧められたものではないと颯太は考えるが。



「どうやら世話になったようだ……」

「あまり無理をなさらないで。街の入り口で意識を失われて居たんですよ」

「……そうか。流石に都市部からここまで徒歩で来るのは、無理があったな」



Aとやり取りしている彼の話を聞けば聞く程、颯太の予測は確信へと変わった。
また、Aも驚愕の表情を浮かべて、珍しく怒り交じりの声を放つ。



「都市部って……大都市からですか? なんて無謀な、ろくな準備もしないで!」



それはどちらかと言うと驚きのように聞こえる声だが、彼女とは長い付き合いに
颯太には、すぐにその中に“怒り”の感情がある事がわかった。

しかし温厚な彼女が怒る事など滅多にないので、僅かな戸惑いを覚える。



「…………」



一方、男の方もAがどんな思いで声を荒げたのか掴んだのか──案外繊細な
感覚を持ち合わせているようだ──Aを落ち着かせようと柔らかな視線を送る。

＊→←◇颯然と切った風◇

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