【鬼滅の刃】神様の巫女 拾壱

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「お？」


目の前を舞う鮮血。視界には兄さんの少し驚いた顔と、同じく兄さんの切り裂かれた両腕。隙だらけのその腹を思いっきり蹴り飛ばして距離を取り、くるりと刀を回した。
ざざっ、と下駄を地面に擦り付けながら衝撃を殺した兄さんは、こてんと首を傾げて不思議そうに私を見つめてくる。ぼたぼた血を零す腕が、耳障りな音を立てて一瞬で生えた。


「…………へぇ。父さんと母さんの時は腕を斬るだけで終わったのに、向こうにいる人間殺そうとしたらこんな事しちゃうの？ 誰か大切な人でもいるのかなあ」


ふ、ふ、と浅い息。未だに兄さんに対しての恐怖心は拭えないけど、それでも今ここでやらなきゃ炭治郎達が殺される。この人は本当にやる。ここで止めないと、間違いなく、炭治郎達は殺される。


「……あっは。あは、はははははははっ」


笑いながら生えたての片手で顔を抑えて俯いた兄さん。その笑い声が嫌に辺りに響いて、なんだか不気味だった。


「っはぁー。いやぁ、どぉしよう。どうしようかなぁ」


顔を上げた兄さんが笑い疲れたと言わんばかりに息を吐いて、顔を抑えていた手を上に移動させて前髪を掻き上げる。


「──すっごく、不愉快」


眉を顰めて尚も笑うその表情は明らかに怒っている。自然と刀の柄を握る力が強くなって、限界まで張られていた緊張の糸が千切れそうな感じすらした。こんなに怒った兄さんは初めてかもしれない。


「そういえば、俺の名前を言ってなかったね。言うのが遅くなってごめん」


“兄さん”って呼び方を変えさせる気なんてさらさら無いんだけど、と付け加えて、兄さんはその聴き心地がいい声で自分の名を告げる。


「俺の名前は“祷折”。祷りを折る者。それが、今世での俺の名前だよ」


祷りを折る、なんてとんでもない。由来が怖すぎる、と現実逃避要員の私のかけらがぼやいた。何を言ってるんだって？ そんなの私が聞きたいいつだって私の方が聞きたいわ馬鹿。


「名前は無惨がくれたんだ。結構気に入ってるんだよねこの名前。ああ大丈夫、安心して？ Aが鬼になったら、名前はちゃんと俺がつけるから」


何を安心すればいいのかが全然全く分からない。兄さんが名前をつければ安心できるなんて問題じゃないと思う。
……いつもの調子が出てきた。多分どうにかなる。どうにかする。


「さて。俺もあんまりこういうのはしたくないんだけど……お仕置きの時間だよ、A」


きらり。兄さんの瞳が、一瞬だけ青く光った気がした。

第94話 懴悔なんてするはずない→←＊

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