【鬼滅の刃】神様の巫女 拾壱

＊ ページ39

「そんな奴が、殺せるわけなかろうて」

「…………」

「ほれ。ぐうの音も出らんじゃろ」


俯いて唇を噛み締める。それはそうだ、と心が納得する。
分かっては、いたのだ。覚悟が足りないなんて。兄さんを殺すってことに対する感情を殺して、頭に浮かぶ言葉を全部潰して、考えないようにして。自分自身納得もできていないのに、兄さんを殺せるはずがない。
鬼だから殺す。私はその一言で感情にケリをつけられるほど利口ではない。
そんなこと、分かっては、いたのだけど。


「じゃあ、どうすれば……」

「知らん」


取り付く島なんてありゃしない。こういう時、神様は正しく厳しい。これは私が考えなきゃいけないこと。私が、見つけなきゃいけない答え。


「殺すにしろ殺さんにしろ、有耶無耶のままじゃどちらも上手く行くわけなかろう。ま、せいぜい悩むと良いわ」

「でも、でも、さ。悩んでる間に、兄さん、人殺しちゃうかもだしさぁ」

「そうじゃな」

「そうじゃなって……」


じゃあどうする。神様の目が、視線が、そう言っていた。


「…………」

「焦ってもすぐに決断は出らんじゃろ。しっかり考えることが第一じゃな」

「……わかった」

「ま、儂なら即殺すがの〜」

「あのさあ……」


人が言葉を重く受け止めてるってのに、どうしてこの神様この野郎は呑気にそんなことが言えるのだろうか。文字通り人事(ひとごと)だからか。ふざけんじゃねぇよ。


「じゃって、鬼になった時点で邪魔じゃし。そんなん殺しちゃうしかないじゃんね〜」

「神様はそうかもしれないけど、人間はそう単純じゃねーの！！」

「そうかの。少なくとも、炭太郎(すみたろう)はそこんとこ理解しとると思うがの」

「っ……」


思わず俯いた。炭治郎の名前を出されたらぐうの音も出やしない。……あと炭太郎じゃなくて炭治郎。


「鬼になった妹がもし一人でも食えば、己とその師、ついでに兄弟子と、切腹するんじゃろ？ 彼奴等の方がよほど覚悟が決まっとる。……まあ兄弟子の方は巻き込まれただけの気もするが」

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