【鬼滅の刃】神様の巫女 拾壱

第93話 こんにちは、絶望 ページ2

兄さんの言葉に目を丸くして、呼吸も上手くできなくなって。ただ見つめる事しかできない私を愛でるように、兄さんは優しく私の頬を撫でていた。


「前は上手くいかなかったからね。こっちの世界でも、俺とAは生まれた時から離れたまま。なんなら生まれた時代も違うみたいだし。でも鬼になっちゃえばずっと一緒にいられるじゃない？ ね、鬼、なるよね？ なるでしょ？ だって俺の妹だもんね。兄妹はずっと仲良く一緒にいるって、当たり前の事だしさ」


蕩けるような優しい表情でそう言う兄さんに身体が強張って、頭の中に疑問符が大量に浮かぶ。
ずっと仲良く一緒にいる？ 何言ってるの、それならなんで、あの時、あの時……。


「聞きたい、ことが、ある」


気づけばそう口にしていた。この場を支配する空気の中にぽつりと落ちた純粋な疑問。なあに、と首を傾げる兄さんに、私は唇を震わせながらも言葉を紡いだ。


「ずっと、一緒にいたかったなら……なんであの時、私を殺したの」


じくじくと傷もないお腹が痛む。そこは以前刺された場所。兄さんが、私を刺した、ところ。
きょとりとした顔で、まん丸とした目で一瞬だけ固まった兄さんは苦笑いを浮かべて、そうして返してきた言葉に絶句した。


「だって、Aが出て行くって言うからさぁ」

「……は、ぁ？」


未だに私の顔を撫でる兄さんと、意味がわからなくて固まる私。ざわ、と吹いた風が髪を揺らしたのですら気持ち悪かった。


「ぁ、え、それだけ？」

「それだけって……。“それだけ”なんかじゃないよ、大問題だよ」


大問題、とは……？ 眉を寄せる兄さんに私も思わず眉を寄せた。本当にわかってないんだねぇ、とため息を吐いた兄さんは、ずいっとその端正な顔を近づけて、形のいい唇で言葉を繋いでいった。


「だって家を出て行かれたら、もう守ってあげられないでしょ？」

「まも、て……？」


どろり。視線の気持ち悪さが増した気がした。わからない？ と兄さんの視線が問いかける。喉が一瞬にして渇いて、息をするのも辛くなる。

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