第三十二話「友とは」 ページ33
「え、あ…。」
深々と頭を下げ、作戦の参加に感謝の意を伝える黒髪男に私は戸惑いを隠せず後退りしてしまう。
「我々『猟犬』が招いた不始末に巻き込まれA殿はそれでも作戦に参加し、敵を誘き寄せ瞬時に異能を読み取るその素晴らしい勇気、明晰な頭脳に俺は頭が上がらない。」
彼は私を褒め称えるが、私は少し思考がひねくれているので、『別に誘き寄せたと言っても、多分偶然である。』や、『能力が分かったとしても言うのが遅くなったから幼女が怪我をしてしまった。』等の意見が頭に広がり、彼を否定し始める。
「A殿は唯の平凡な一般人だと言うのに、助けて貰った。本当にありがとう。」
変な気分である。私は何もしていないのに、嘔吐して阿鼻叫喚して叫んで噴水に飛び込んだだけなのに、こんなにも賞賛されるなぞ思っていなかった。
私は周りの『猟犬』に視線を移す。隊長や幼女は優しく微笑み、まるで私が彼等を助けた英雄を見る様な、そんな視線で私を見ていたのである。
「何か言いたそうだな、中本よ。」
「儂の拳の事を気にしているのか?」
幼女は私を察し、怪我をした拳をさすり誇らしげな笑顔で私に言うのである。
「儂が先に怪我をしたお陰で、お主は標的の能力に気付き隊長に知らせてくれた。ので、これは必要な犠牲じゃ。」
なんて広い器の持ち主なのだろうか。条野さんよりも素敵な精神だ。こんな人達を見ると条野さんが如何に捻くれ者なのかがよく分かる。
「なんです?私をそんな異物を見る様な目で見ないで下さい。見えないけど。」
「いやぁ、こんなにも凄い部隊なのに一人だけひねくれた人が居るので吃驚してしまい…すみません。」
「貴女、私に何回も助けられていますよね?」
「でもそれって貴方の気まぐれだったりしません?」
私達はなんともしょうもない口論をぶつけ合う。その様子を他の『猟犬』の面子は面白がったり、驚いたりと様々な表情を浮かべて見ている。
「成程、A殿と条野は友の様だな。」
黒髪男の発言に私と条野さんは「はぁ!?」と一緒に声を荒らげて返事してしまう。それに隊長は大きく口を開け笑い出す。
「お前らは似ているな!」
「条野は友が居ないからな。貴殿の様な素晴らしい人間が友になってくれると俺達は凄く嬉しい。」
どういう目線で言われているのだろうか。条野さんは黒髪男を「また貴方は。」と文句を言う。
その様子を私は珍しく「微笑ましい」と感じたのである。
第三十三話「新たなる刺客」→←第三十一話「脅威は大穴へと落ちて行く」
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肉塊(プロフ) - 冬斗さん» わーいありがとうございます〜もっと頭悪い小説にするので何卒〜 (2022年7月28日 10時) (レス) id: 9c26b5fd8b (このIDを非表示/違反報告)
冬斗(プロフ) - そう言っていただいて嬉しいです…!作品いつも楽しく読ませて貰ってます! (2022年7月28日 10時) (レス) id: 2506e918c7 (このIDを非表示/違反報告)
肉塊(プロフ) - 冬斗さん» いや草。誤字の指摘、ありがとうございます。あと自信を持って下さい。何回も謝る様な事貴方様言ってませんよ( 'ч' ) (2022年7月28日 10時) (レス) id: 9c26b5fd8b (このIDを非表示/違反報告)
冬斗(プロフ) - なってしまいます。うぅ…文章が長くなってしまいすいません…失礼しました… (2022年7月28日 9時) (レス) id: 2506e918c7 (このIDを非表示/違反報告)
冬斗(プロフ) - すいません…自分なんかが初コメでおこがましいと思いますが、第四十七話の「再会」の最後の方で『あの時は彼が』の後が『鮭の飲み過ぎ』になっていました。恐らく『酒の飲み過ぎ』だと思います。このままでは夢主の中で、条野さんがしゃけを飲んで酔う人に (2022年7月28日 9時) (レス) @page49 id: 2506e918c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:肉塊 | 作成日時:2021年9月24日 3時