命にキスを 〜アウトローな未来のお話〜

三十一　ビアンカ　vs　ロバート ページ31

　ここは十字路であるが、向こう側の信号が黄色になって赤に変わった。こちら側の信号も直ぐに変わるだろう。

　ヘルメット越しにロバートを右目に見ると、なんだか腹立たしくなった。あいつは緊張の面持ちもない。遠くを凝視して、腰の部分はどっかりと座らせている。その姿に業を煮やす。
「もうすぐ信号が変わるよぉ、アーユーレーディ？」男の声が透き通る。
　前には誰もいないレース場と化した国道がある。虚空を感じる夜空の下には、見に来た人達が手を叩いたり、大声を出したりで私達に喰いついていた。
「ゴー!!」

　ロバートより先にエンジンをふかし、アクセルをぐっと握る。あいつより先に白線から飛び出して行って、フロントフォークと呼ばれるタイヤの少し上を蹴った。お互いのバイクが少しぐらついたが、私はそれも刺激的に思った。

　五ヤードほど前に出ると、あいつもアクセルを利かせてきた。エンジンの音がぐっと大きくなる。それに負けじとアクセルをもっと入れ、距離を離す。あいつも加速しはじめた。
　これでなくっちゃ勝負は始まらねえ!!


　耳と首元の髪の毛が風が送り込まれる。快感だ。前に遮る人はいないし、見通しが良い。それに服が風に煽られてバサバサという激しい音がし、自分の肌を撃った。道路はとんでもない速さで後ろに流れて行き、スピード感が身体に焼き付く。好きで刺激的で、有頂天に達した。
　スポーツバイクに見立てて、自然に前傾姿勢になっていた。風が気持ち良い。大好き。

　もうすぐ曲がり角だ。拳に徐々に力を入れて、ブレーキレバーを引く。この感覚がとても懐かしい。手袋の柔らかな手触りが指を埋もらす。身体をひねって逆流に乗る。

　そこまでは順調だった。
　ロバートが減速をせずに曲がったのか、私の横に並んだのだ。右を見るとロバートの姿があって、鋭い目付きを浮かべる。高い鼻が憎たらしく思った。
　一，二秒程で状況を察知し、次の攻撃に出る。

　ピンヒールの先をロバートの太ももめがけて一発打つ。命中しぶにっというような感触が伝わった。衝撃でロバートは一度腰がぐらつき、路面に落ちそうだった。私も落とすまで鬼ではないから、ぎりぎりの所で止めておいた。

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