ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

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「すまん、待ったか？」


　３年生の自転車小屋には知らない人が多くて、違う土地に迷い込んだような気分になった。


　ワイワイと賑やかな空気だが、私の知っている世界ではない。


　慣れない空気にひとり立っていると、みなと兄のいつもの声が降ってきた。


　慌てて首を振ると、「そう」と短く返ってくる。


「おー、みなとじゃねーか。運動場行かなくていいのか？」


「だーかーらっ。俺は何処の部活にも所属してねーし、帰宅部なんですー」


「はいはい。怒らないの」


　クラスメイトであろう人物からの嘲笑を、猫でも追い払うように折り畳む。


　校門を出ると、座れとでも言いたげに顎をクイッと動かす。


「それじゃ、遠慮なく」


　久し振りに座る荷台はゴツゴツと痛く感じた。


　ゆっくりと進む自転車は相変わらず五月蠅いけど、その音を聞くと安心した。


「昨日の内に六花の御袋が着替えとか持って来てた」


「そっか。なんかね、お母さん看護師に転職したんだけど忙しくってさ」


「会えてない？」


「週に２回くらい顔合わせてる」


「へー」


　丘にある学校がどんどん遠ざかって行く。


　約１ヵ月もの間、友達と別れるのが寂しい。


　私はみなと兄に絡める腕の力を強くして、背後の学校を仰ぎ見た。


　上半身も大して成長せず、前と同じ高さからしか全てを見れていない。


　みなと兄は夏にみるたびに大きくなってるのに。


「ねえ」


「んー？」


「桃香って知ってる？」


「お前と今日下駄箱にいた女の子だろ。知ってる」


「え、なんで!?」


　名前も教えたことないし、友達だよーって紹介したこともない。


「美化委員がいっしょ」


「あー、そっか。ふたりとも美化委員か……」


「それで、なに？ アイツがどーした」


「今日ね、桃香がみなと兄がひとみ先輩に告られたんじゃないかって」


「ぶっ」


　身体がガクンっとなる。


　車の通りが少ない、他の人がいない、と言った道ではあるものの、もし人がいたら笑ってしまうであろう見事なブレーキだった。


　森の木がガサガサと揺れているだけなのに、笑っているように思える。


「み、みなと兄！ まだ話の途中……っ」


「いや、お前何で知ってんの？ 何でお前等知ってんの!?」


　ガバッと振り返ったみなと兄の焦りようは異常。何かいけないこと言ってしまったんじゃないかと不安になってしまった。

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