ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

23　陸上部 ページ24

「あ……」


　走り高跳びをしている陸上部の人たちの中に、一際スタイルの良い人がいる。


　朝比奈 ひとみ先輩だ。


「キレーっ」


　ブルマのような運動服からスラリと伸びた脚は、他の部員より際立って真っ白。


　思わず目が行ってしまう程の美脚だ。


　ウエストの位置すらも男部員より上にあるのに、座高は低くて男子の身長を抜いていない。


　陰影が程好くついたバストと、作りもののような鼻。


　黒髪のポニーテールが背中でゆらゆらとアクセサリーのように揺れている。


　女の私でもみとれてしまう。


「１年生の皆は背面飛びって初めて？」


　オペラ歌手のような声は何処までも透き通っていて、２階にいる此処まで聞こえた。


　ハキハキと喋るには竹のように真っ直ぐな姿勢で、頬の筋肉を動かして。


　こちらもちゃんとしなくては……と思ってきてしまう。


　プレッシャーを押しかけられたみたい。


「や、やったことないです……」


　１年生の心配そうな表情をなだめ、まるで我が子のように可愛がる。


「そっか。中学生の時にやった子もいると思うけど、


　高３になる頃には自分の身長と同じ高さを飛べてほしいの」


　目を見開かせる１年生相手に、不安感を抱かせぬよう先輩は朗らかな笑みを浮かべた。


　美人っていう言葉があるなら、あの人のために出来たに違いない。


「私は162cmなんだけど、自分の身長と同じぐらいのを飛んでみるね」


　簡易マットと鉄棒のような装置。


　結構な高さがあるが、本当にあれを跳べるというのか。


　全員を背後に、先輩はバーに精神を集中させた。


　１年生は半信半疑だが、２年生と３年生はニタニタと微笑んでいる。


　先輩が右足を一歩ひいた途端、静謐なひとときが流れた。


　砂埃が舞い、先輩の顔付きが変わる。


　無表情でもない、怒っているでもない、その顔が私にとっては別人に見えた。


　助走が終わって、身体が伸び上がる。


　映画のスクリーンでよく見る、スローモーションに見えた。


「おお……っ」


「す、すげぇ」


　１年生の感嘆の声はひとみ先輩が獲得したものだが、２年生と３年生が何より嬉しそうだった。


　私も思わず拍手してしまう。


　緊張が解けた顔でマットから起き上がり、にこやかに部員の元へ駆けて行く。


「皆も頑張ったら自分の身長は絶対跳べるし、


　男の子なんかはプラス30cmを飛べる強者もいるの」

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