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『あの、義勇さん。そんなに見られているとやりにくいです』





義勇は台所を案内して、なにかするわけでもなくただそこに立ってAを見ていた

Aは溜息をついて俺に好きに過ごしてほしいと言った
半ば強引に押し出されたため、俺は渋々自室に戻る


暫くすると良い香りが漂ってきた
香りに導かれるまま台所へ行くと、Aは味見をしている最中だった

台所にはいかにも食欲をそそるうまそうな匂いがたっている




『よし、いい味』


「どうだ」


『わっ、義勇さん、驚かせないでください』




気配を消しているつもりはないのに何故か怒られて義勇の頭には疑問符が浮かぶ




『美味しくできましたよ』


「俺にも味見をさせてほしい」


『夕餉のときにちゃんと出しますよ?』




義勇の目には、鍋の中で輝く鮭大根が映されていた
こんなにも出汁が染み込んだ大根を見るのは久しぶりである
それが義勇の唾液腺を刺激し、今すぐにでも食べたいくらいだった




『もう。一口だけですよ』




その言葉を聞いてムフッと笑いながら義勇は箸を握った
小皿に取られた大根と鮭を口に含む
じゅわっと口の中一杯に広がり、鮭はほろほろと崩れていく

これは美味い。
一口では飽き足りず、鍋に箸を伸ばした




『こら!一口だけと言ったでしょ』




Aが別の作業をしている間に取ろうとしたはずなのに、何故気づいたのだろうか




「すまない。美味かったから」


『口に合ったのならよかった。夕餉のときはたくさん用意するから待っててくださいね』




そういいながらAはまた別の作業に取り掛かった

その姿はどこか蔦子姉さんを思い出させた




姉さんも生きていたらこんな風に過ごしていたんだろうか





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作者名:こゆ | 作成日時:2024年8月31日 10時

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