〈３〉愛を運ぼう【夏油傑】

７話 薬 ページ32

 


 ソイツが２つの箸(はし)を握(にぎ)りながら、器(うつわ)を重ねてそれを持つ。

 そうだ、浅上さん。とソイツが和テーブルの側(そば)に座って突(つ)っ伏(ぷ)しているオレに声をかける。視線(しせん)を上げる。

「服は洗濯(せんたく)して干(ほ)してあるから。多分(たぶん)お風呂(ふろ)までに乾(かわ)かないだろうから、その時はドライヤーで乾かすように言ってあるから安心して」

「……何から何まで悪いな」

「大丈夫(だいじょうぶ)だよ。私のワガママから始まっている事だからね」

 そう言って部屋を出ようとするソイツに、オレは声をかける。


「薬飲むから水ちょうだい」

 ソイツが目を開いて振(ふ)り返る。

「薬？ 浅上さん、どこか悪いのかい？」

「そんなんじゃない」

「？ なんの薬？」

「ただのホルモン剤(ざい)だから」

「ホルモン剤？」

「――良いから行け」

 ソイツはとりあえず置いてくるね。と言って去って行く。


 オレは言っても気にしないけど、さすがに低用量(ていようりょう)ピルとはソイツには言えないだろう。ホルモン剤だから間違ってもいないし。

 オレは副効用(ふくこうよう)としての避妊効果目的(ひにんこうかもくてき)では無く、生理の周期を整えたり、月経前症候群(げっけいまえしょうこうぐん)の改善(かいぜん)。何より、月経量(げっけいりょう)が少なくなることによる生理痛の軽減(けいげん)を目的として毎日飲んでいた。

 確かに死にはしないし、貧血(ひんけつ)も起こらない。

 けど、体内の痛みに強いかと言ったらそこまででは無いし、生理前にイライラもする。そういう要因(よういん)を排除(はいじょ)するために、オレは中学生の頃(ころ)から産婦人科(さんふじんか)で低用量ピルを貰(もら)っていた。



 

…２→←…５

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す