悠仁ノ幼馴染【呪術廻戦】

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「お札って、そんな簡単にとれんの？」

　闇夜の空の下、気味の悪いくらい静かな光が差し込む。

　今私は、悠仁の背中で荷物を持って必死にしがみついている。 「Aは先に帰っててくれ」と言われたが、頑として私が譲らなかった。

「いや、呪力のない人間にはまず無理だ！ 普通はな！」
「右、近道だ！」

　二人のやり取りを、悠仁の背中越しで聞いている。
　今すぐＵターンをして家に帰ろうと言いたいのに、悠仁の意志は固い。それ相応の建て前を準備しないといけない。 そう考えていると、学校はもう目の前だった。

　途端、何かを弾いた感覚がした。

――危ない。

――危ないよ。

　聡明に感じるこの感覚は、体を硬直させるには十分だった。 頭の中では、何度も何度も警報が鳴り響いてる。

「オマエ等はここにいろ」

　そう言葉をかけ、悠仁に乗っている私ごと、後ろに下がるように背中を押しのけられた。 そして、伏黒はフェンスを軽々と上る。

「俺も行く！ やばいんだろ!? 二月やそこらの付き合いだけど、友達なんだ！ ほっとけねえよ」
「ここにいろ」

　伏黒はこちらを一睨し、禍々しい気配のする学校へと向かっていった。 呆気に取られている悠仁の背中から降り、私は悠仁の震えている手を取った。

「帰ろう、悠仁」
「え？」

「帰ろう。 危ない。 あの人も言ってたじゃない。 それに、大丈夫だよ。きっと何とかしてくれる」
「は……」

　嘘だ、そんなことは分かり切っている。 そんなことはない、あの人もきっと危ない。 けど、今ここから悠仁と離れなければいけない。 そんな焦りを悟られないように必死に頭を回す。

「それか、そう、警察とかにも連絡してみよう。 夜の学校だもの、先生には連絡できないし。 私、ちゃんと電話するから、だから、ちょっと離れた所で……」

(早く、速く、……はやく。 悠仁を危なくないところへ……)

　気持ちを隠そうと思考を回しているのに、焦りが止まらない。誤魔化しきれていないことは、自分でもわかっていた。

　下唇を噛んだ悠仁が、私の手を優しくどけ、フェンスの方へ歩き出し、柱に手をかけた。 体が錆びついたネジの様に動きが鈍い。 それでも、しっかりと悠仁を見据える。

「ま……って、悠仁。 いっちゃ……」
「A」

　ゆっくりと悠仁に伸ばそうとした手が、壊れた時計仕掛けのように止まった。

「――行ってくる」

　そう言った悠仁の顔は、運命の選択を――決定したように見えた。

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