Request：永遠の時を刻む ページ38
学園裏の山を奥へと進んで行った所、そこではクリスマスローズやシクラメン、シネラリアといった様々な種類の花が美しく咲き誇っていた。
滅多に人が寄り付かず、それでいて自然に囲まれて過ごすことの出来る此処は、こちらの世界でのAのお気に入りの場所である。
霜によって凍った下生えをぽっくり下駄で踏みながら歩くと、一人ぼっちの空間にしゃくしゃくと癖になりそうな音が響いた。
｢愛する人よ……｣
たった一人の愛しい彼のことを思いながら、ぼんやりと霜の衣を纏う花のゆらめきを見つめ、旋律にのせて言の葉を紡いでいく。
無表情という鉄の仮面で感情を隠し、丁寧な口調で他人との壁を作り、決して心に踏み込ませないように一線を引いている彼女。
時には冷酷非情だと罵られ、人の心を持たないバケモノだと貶されたこともあるAだが、それでも彼女は歴とした人間である。
命を奪われた最愛の彼を想って心が軋むこともあれば、涙が溢れてしまうことだってあるのだ。
｢くふふ、妬けてしまうのう……Aよ｣
Aの首に細い腕を回し、後ろから軽く体重をかけるようにして抱き締めてきたのはリリアだった。
そのままひょいっと抱き上げられ、彼の胡座の上に座らされたことで、ほんのりと甘い椿の香りが鼻を掠める。
此処は人目につかない場所の筈だというのに、どうしてリリアが居るのであろうか。
疑問に思ったAが首を傾げたものの、リリアから返された答えは楽しげな笑い声だけであった。
｢随分と熱い歌よの｣
｢そういう歌詞ですからね｣
｢違う、お主なら言いたいことが分かるじゃろう？｣
確かに、歌詞は大分と熱烈な想いが綴られている。
けれどリリアが"熱い"と評したのは歌詞でもリズムでもなく、Aの歌い方そのものであった。
掠れた吐息が色っぽさを醸し出しているのもあって、まるで目の前にいる恋人に愛を伝えているかのような甘さの歌い方。
唇の隙間から吐き出される儚い白が、Aの感情の揺らぎを表しているかのようにも見えるのだ。
｢お主にそこまで想われ、愛されている男が羨ましいものよ……きっと、そ奴も向こうの世界でAを想っておるのだろうな｣
｢それは有り得ませんね｣
｢それは何故じゃ？ もしや浮気者なのか？｣
｢いいえ、彼は一途でしたよ。……もう、彼は亡くなっておりますから、想ってもらえることなど有り得ないのです｣
苦しそうに絞り出されたその言葉は、リリアの胸を酷く抉った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1883人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ツイステ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆるり(プロフ) - ゆゆ。さん» 黒執事好きですよ！！ ハムレットが出てくるんですか……！？ 漫画の購入が途中で止まっていまして……笑 近々揃えてちゃんと読んでみます！ でも！ 黒執事は凄く好きです！！！ (2020年8月20日 1時) (
レス) id: 6a421b584d (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ。(プロフ) - 凄く面白いです！(前の作品にコメごめんなさい…)ハムレットって黒執事にも出てきますよね…！もしかして作者様黒執事好きだったりしますか…？私的にはハムレット出てきて嬉しかったです（笑） (2020年8月19日 16時) (レス) id: ead64206de (このIDを非表示/違反報告)
ゆるり(プロフ) - マツリカさん» こちらこそリクエストありがとうございました！私もクルーウェル先生大好きなので書いていて楽しかったです！ (2020年5月22日 6時) (レス) id: 6a421b584d (このIDを非表示/違反報告)
マツリカ(プロフ) - クルーウェル先生のお話ありがとうございました！！一生の宝物にしますうううつ！！！！ (2020年5月22日 6時) (レス) id: 88d493ffab (このIDを非表示/違反報告)
ゆるり(プロフ) - えむさん» こちらこそありがとうございました！ 勿論、リクエストは受け付けております〜！私でよければまたどうぞ！ (2020年5月21日 16時) (レス) id: 6a421b584d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆるり | 作成日時：2020年5月3日 19時
