聞こえますか、この声が。 (ページ32)

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ep.32 ページ32

佐野side

「....これだけか？本当に。」

試すような

楽しんでいるような

そんな、目つきで目の前の男は、俺が渡したメモを見た

「まあ、いい。お前は所詮保険だ。」

知ってる

「どうだ、晶哉。戻ってくる気にはなったか？」

彼は、決して笑みを崩さない。

口角を上げたまま、その手が俺の首に伸びる。

条件反射のように体を背けても、大きな手は俺の首から離れへん。

息ができん

生理的な涙が視界をぼやけさせる

それでも、彼は笑ってた

「俺の、目を見ろ。晶哉。」

「.....嫌だっ.....」

嫌だ。

もう、戻らない

戻りたくない

あの頃には、もう戻らない

どれくらいそうしていただろう

ようやく、彼の手が離れて、一気に自由の身になると、自分の体は支えるものがなくなったみたいに、ずるっと地面に倒れた。

息の仕方を忘れたように、気道が狭い

足に力が入らへん。

そんな、俺を見下ろして、フッと笑うと、彼は振り返った。

「.....まあ、別に戻ってくる必要はない。

どちらにせよ、お前が裏切り者であるという事実は変わらないのだから。」

裏切り者。

そうやな。

俺が、みんなを裏切ってるという事実は変わらん。

それでも。

「ハアッ、ハッ、それでもっ！....俺は....ここにいたい。」

絞り出した声は、自分の声じゃないみたいに、地面に落ちた。

「構わんよ。どうせ、この街もそう長くない。」

上がった口角を下げないまま振り返ると、彼の足音は遠ざかっていった。

「ごめんなさい....」

誰に向けて謝ったのか

そんな事もわからん俺はきっと

この街にも

仲間って呼んでくれる優しいあの人達にも

もちろん、彼にも

必要ない

・

・

・

「晶哉.....」

静まり返った廃墟に

突然投げかけられた、泣きそうで、震えた声に

体が硬直する。

その声の主は、振り返らなくても知っていた

「......大晴くん。」