聞こえますか、この声が。 (ページ30)

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ep.30 ページ30

藤原side

微妙な表情のまま、末澤は病室を出て行き、俺は今度こそ一人になった。

2年もあれば、いろいろ変わる

とは思っても、晶哉とかいう、新入りの心配をする末澤は、すっかり年上の顔で。

昔のまとくんみたいやん。

オカンみたいに俺らの心配してた人。

『そこ、段差あるでー！』

とかさ笑

戦闘中でもその調子やから、銃撃戦とかしてても、笑っちゃったんよな。

今は、あいつがその役割なんかな。

そんなこと思ったら、なんかむず痒くなってきて。

誤魔化すように、今江が持ってきてくれた自分の端末を開く

俺を撃った黒ずくめの男

顔は見えんかったけど

香り

煙草の香り

オオサカでは、煙草は高級品

政府関係者の中でも幹部クラスしか手に入れることは無理

って、大橋のカフェで聞いた記憶がある

『俺のボスが、俺の前でプカプカ吸うんだぜー、嫌味だよなー。おかげでジャケットにすっかり香りが染み付いてしまったよ』

なんて、笑ってた常連客のジャケットに残っていた独特な香り

同じや

こんな、暮らしをしていると、記憶力だけは身についてる。

あの、独特な香りに間違いはない。

ならば、疑問は一つ

足音は一つだった

つまり、煙草の匂いがする奴。

高級な煙草をおそらく吸っている、または吸っているやつの近くにいる奴

政府関係者

どうやって、俺たちの居場所を見つけた？

どうして、俺を撃った

目的は？

脱獄した５人を連れ戻すのが目的なら、捕獲のために、大勢で来るはず。

皆殺しが目的なら、大橋たちが戻ってくるのを待つはず。

俺一人を撃って、満足した。

それ以上の危害を与えなかった。

「どーいう事や...」

この、端末に入っている情報が目的なら、端末は今俺の手元にないはず

「ますます、訳がわからん....」

『裏切り者』

末澤が呟いた一言が、頭の片隅にこびりついて

どうしようもない、嫌な予感に腹の傷が疼きだした気がした