■22:TONGUE[舌] ページ22
.
…刹那。ボゴン、と土から顔を出すような、物を突き抜ける音が聞こえた。薄暗い機内に舞い散るは鮮血。その一列に座って眠っていた一般人達は不幸な事に、舌を全て抜かれていた。
嗚呼、俺の嫌いな事第2位だ。『他人が関係ないのに面倒ごとに巻き込まれる事』。
「チッ…野郎…!」
「や…やりやがった!!」
『
モハメドがその怒りの炎を体現するようにスタンドを出したが、典明の制止の声でピタリと止まる。
その目線の先には老人。騒々しさに目を覚ましたらしい。そして壁に触った拍子に、壁の文字と血に気が付いた。パニックになって大声を出す前に、典明が当て身で気絶させた。モハメドは案外情熱的なタイプらしい。今の様子を見るに短気だ。そしてその怒りの名は…『義憤』だ。
俺は二度目の舌打ちをすると、
「おいクワガタ、そんなにやりたいなら乗客の舌全員分抜いて見せてみな!」
「! 龍兎、君なんて事を…!」
「いいだろ、それが一番合理的だ。自分の舌は抜いたりしねえ」
これがあのクワガタ野郎を倒す最善の手。そう思っての発言なのに、周りからの目は何処か冷たい。なんで? ホリィさんを助ける為に乗ったんだろ? 手段なんて気にしてる場合じゃない。
誰かの手を掴もうと手を伸ばしたのに、その手が空ぶった気分だった。俺の心の隙間に、冷ややかな風が刷り込んでくる。
すると、俺の肩に手を置きながら典明が前に出る。
「龍兎、君の考えはいつも合理的で正しい。ただ、わたしたちとしては関係のない犠牲者は出したくない。アヴドゥルさんの炎はこの飛行機を爆発させかねないしJOJOのスタンドも機体に穴を開けかねない」
つまりは「自分に任せろ」ってな訳だ。
俺はひとり、自分の胸に手を当てる。空虚。空虚。空虚。なんで俺だけ違う? なんで俺を否定しない? どうせ間違ってると、俺は悪だと思っているんだろう。なのになんで言葉にしないんだ。そんな曖昧な肯定も否定もしない態度が、半端な優しさが大嫌いなんだ。
なんで、なんで俺は──皆みたいに他人を優先出来ないんだ。
俺には自分と皆の間に境界線があるように見えた。
「……」
承太郎の視線には、気付かない。
■23:EMPTINESS[空虚]→←■21:TOWER[塔]
76人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カレーライス(プロフ) - 鼎さん» ありがとうございます! そう言ってくださると、モチベーションが上がって書くのが楽しくなります! これからもよろしくお願いします! (2019年11月26日 21時) (レス) id: 62819c8559 (このIDを非表示/違反報告)
鼎(プロフ) - すっごい面白いです…一気読みしてしまいました…!更新はご自分のペースで無理をなさらない程度に頑張ってください...!ずっと応援してます! (2019年11月25日 7時) (レス) id: 7b1eca840c (このIDを非表示/違反報告)
カレーライス(プロフ) - ASTEさん» ありがとうございます! 頑張ります! (2019年8月16日 12時) (レス) id: 62819c8559 (このIDを非表示/違反報告)
ASTE(プロフ) - めっちゃ好きです!!!更新頑張ってください!!! (2019年8月15日 19時) (レス) id: 2389d4e467 (このIDを非表示/違反報告)
カレーライス(プロフ) - ツティスさん» 感想を言って頂けて嬉しいです。これからも、龍兎たちをどうぞよろしくお願い致します! (2019年8月10日 16時) (レス) id: 172c2d6dd4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ