【ジョジョ】兎、月に吠える。【空条承太郎】

■12:STAND[幽波紋] ページ12

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いつ聞かれる、と言うか空条が俺をこの家に泊めたのはこれを聞くためだとは思っていた。あまり他人に自身のスタンドについては話したくないものだが、暗黙的に俺が自身のスタンドについて語るのは何となく決まっていた。

「見ての通り、か弱い兎のスタンドさ。臆病で恥ずかしがりで──とても実践には使えない」

　俺の背後からぴょこっと飛び出してきたのは黒い毛の兎。わざわざ変身させているのだ。俺はおどけたように両手を開き、胡散臭い笑顔を貼り付ける。
　『(rubu:幽波紋:スタンド)』とは魂の、精神の“像(ヴィジョン)”。俺の魂には決まった形はない。つまりからっぽ。よって──「変身・変態の能力」を手に入れた。のらりくらりとした馬鹿げた俺の魂が、この能力に表れている。


　空条は「フン」と鼻で溜め息を吐いた。
　やはり空条を騙すには薄っぺらすぎた嘘だろうか。

「俺にはその兎に女医を移動させられる程のパワーがあるとは思えねーがな」
「説明が面倒だからだよ分かれよ」

　愛想笑いを止め、表情をストンと落とす。
　「見たところ、別のものに変身する能力か？」そう空条に問われる。説明が面倒だからって一言前に言ったのに説明を求めるやつがあるか。

「俺は今のところ君らに、いや君ら以外の人間にもスタンドを話すつもりはない。信用出来ないからだ、信頼に値する関係じゃないからだ。それに君らはトラブルを連れてくるからな、面倒事に巻き込まれるのは御免なんだよ」

　苛立ち半分にそう話す。全部本音だ。少しの嘘偽りもない。苛立っているのはきっと、空条が俺には無いものを全て有しているから──本当は、欲しいものを全て有しているから。嫉妬だ。なんて醜い感情だろう。

「これっきりだ。元より俺は君らと関係を持とうなんて思ってない…でもまぁ、付きまとわれてもウザいからな。明日の朝にでも説明してやるよ。登校しながらな」


　このスタンドに──俺は感謝していた。このスタンドのお陰で色んな事が知れて、色んな事が出来る。自分を偽るのも上手くなった。他人の偽りを見抜くのも上手くなった。望んで手に入れた力ではないが、この力でお母さんは笑ってくれた。なら、俺はお母さんが笑ってくれた偽りで生きていくしかないのだ。

　利己的な、極めて自己中心的なこのスタンドの使い方。俺はきっとこの先スタンドを犯罪に使ってる奴らを見ても何とも思わないだろう。空条のように、誰かの為に使おうなんて思わないから。

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