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何でもない麗らかな在り来りなある日の事。私は組織の違う同じ種の彼女とちょっとしたお茶会を開いていた。

こんな平和以外の何者でも無い日に、物騒な任務の話を、私は目の前の同じ髪色の、サファイアのような瞳を持つ童女から聞いていた。

彼女はその幼い見た目の割に、とても大人びた話し方をする。まあその事に関しては後々話すとしましょうか。

重要なのは内容の方で、どうやらこの近辺で「人食い虎」が出没してるとか。

私は「大変ですねぇ」と他人事のように笑った。

「キリマンジャロ」と言う豆を使った珈琲を机に置いた。嫌いでは無いが矢張りロシアンコーヒーの方が好きな上に紅茶の方が私好みだ。帰ったらロシアンティーを上司と飲もう。

同じ珈琲を飲んでいる彼女─夜桜 霊華─はもう既に大量に角砂糖を入れたはずなのに、まだ苦そうにしている。そんなに入れたらお体に悪いですよ、なんて云うのも彼女に対して使うには可笑しな言葉だと飲み込んだ。

その代わりに

「貴方の異能を使って捕まえればすぐに済むでしょうね。」

「…もう既に試しましたよ。
…ただ捕まえるだけじゃ駄目そうなのが相手だっただけです。」

彼女は優雅に洋生菓子を一口、口に含んだ。

その科白は彼女から聞くにはとても珍しいものだったので、私は珈琲の入った酒杯を持ったまま少しだけ目を見張った。

「…へぇ。貴方の異能で解決出来ないものが存在するんですね。」

そう云いながら珈琲を飲み、おどけるように彼女の洋生菓子を攫った。

食べたいのなら自分で頼んで下さいと言われたが、お金が無いのでと断った。彼女のため息に肩を揺らして笑う。

「…私の異能は、人の心まで戻せませんよ。
できるのは、その空間の時間を戻すことだけです。」

一体そう私に告げる彼女が、今何を思っているのかは、私には分からない。

私は、虎ではなかったかと首を傾げた。

彼女は「ええ。」と肯定しながらまた珈琲に砂糖を入れるべきだと考えているのだろうか。幾つ入れるつもりなのだろう。

「虎の、異能力者でした。」と洋生菓子の上に乗った丁度いい赤さの苺を食べながら彼女は云った。

珈琲をまた一口。早くも飽きかけていた味に少し新鮮味が戻った気がした。

「ふふ、当分は退屈せずに済みそうです。」

私は子供が贈呈品を貰うように高揚していた。

そして、隙ありです、と私は彼女の洋生菓子の最後の一口までも攫った。


私の気持ちと同じように、珈琲の湯気も楽しそうにゆらゆらと揺れている。

参→←壱



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華の幽霊《sgsyu》(プロフ) - 淋さん» コメントありがとうございます。普ちゃんの文才は本当に素晴らしくて、私も参考にさせて貰っているところがいくつもあります。応援ありがとうございます。普ちゃんと共に頑張っていこうかと思います。 (2018年4月1日 20時) (レス) id: db4eb032b8 (このIDを非表示/違反報告)
- どうでもよいお話ですが或るボカロ曲を連想しました…それだけです(*´ `) (2018年4月1日 20時) (レス) id: 350a847f52 (このIDを非表示/違反報告)
- 初コメ失礼。とても善い作品ですね、読んでいて楽しく面白いです。普さんの作品経由で来たのですけど、やはり素晴らしい文才です。これからも頑張って下さい、応援します (2018年4月1日 20時) (レス) id: 350a847f52 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:華の幽霊と普 | 作成日時:2018年3月31日 19時

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