検索窓
今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:98,053 hit

第21話 ページ22





伸ばした手が、誰かに強く掴まれた。

凄まじい力でぐんぐんと引き上げられる。

「__ぷっふあぁ!」

「ゲホッ、ゴホッ」

水をたっぶりと吸った服は重たく、空気を求めて息をして咳が止まらない。

「今日で何回目ですか! また入水なんてして、国木田さんに怒られますよ太宰さんってえええぇぇっ?!」

「…うるさいよ」

耳元で叫ばないで欲しい。

私の腕を肩に回して抱き上げておいて、女だと今気づくとは何事だ。

「いやぁ参ったよ敦くん。川を塞いでいる倒木に引っ掛かって打ち上げられてしまって…貴女は!」

この二人はセットなのか。

落ち着いたところで顔をあげると、喜色満面の太宰さんが正面に座り込んで手を握ってくる。

「昨日の麗しい君! 若しかして私と心中をして呉れる気になったのかい?!」

どうしてこんなにもテンションが高いんだろう。

同じく濡れ鼠の状態の太宰さんは浮かべる笑みで中性的な美貌が台無しになっている。

「Aです。珀羅橋(はくらばし)A」

おろおろとまた可哀想な動きをしてる人虎は、私に話し掛けられないようだった。

そういえば未だ、と名を名乗ると、人虎はあからさまにホッとした様子を見せ、太宰さんはほんの一瞬考えてから何も考えてないかのように戯れ言を吐く。

「A、良い名だね。心中しよう」

「此れは何処を押せば止まるの?」

「釦とかはないんだよ」

目覚まし時計のスヌーズ機能でも付いているかと思えば違うらしい。

此れでは永眠してしまうが。

「どうしてAちゃんは川に?」

「その前にありがとう。助けてくれて」

正直、知ってる人に出会えて良かった。

太宰さんと間違えたとは云え、自力で水面へあがるよりも余程楽ができた。

「今日は帽子置き場と一緒でないのだね」

「…中原さんのことですか」

私と一緒にいた人物に該当するのが一人しかいないから分かった。

太宰さんはと云うと名前を聞くだけで気分が最悪だ、とまた美貌を歪めている。

「Aちゃんは、ポートマフィアなの?」

酷く真剣な表情でシリアスモードな人虎。

その目は、私に誰を重ねて見ている?

「暴力を振るわれて逃げてきた」

黒蜥蜴も、芥川くんも、人虎_"外"に関する情報は話題に上らないように避けていた。

だから一度だけ、聞こえた単語が本当なら。

「探偵社は、助けて呉れる?」

「! __勿論っ!」

人虎は力強く頷く。

太宰さんはと云うと、へらりと笑っただけだった。

第22話→←第20話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (70 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
127人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。