第19話 中原side ページ20
・
思い出すのは、Aを初めて見たときのこと。
「素晴らしい成果だ、中原君」
「首領…何故此方に」
散々暴れた後で、血に塗れた手袋を咥え脱いでいると後ろから声を掛けられた。
幾らエリス嬢がいるとは云え、ふらふらと組織の長が出歩くのは不味い。
素早く帽子を取り膝を尽く。
「派手な見せしめは久々だからね。裏切りには此れ以上の報復が必要だろう?」
内通者がいる。
聞かされた俺たち幹部は揃って殺気立った。
だが独断で動くことはしない。
総ては首領の最適解の通りに。
今夜、見せしめとして潰されたのは武器を密輸しようとしていた小さな会社。
額としては少額で、本来なら丸ごと潰されるような事案ではなかったのだが時期が悪かった。
「続けて」
首領の指示で、俺は煙を吐き出す瓦礫の山に向き直る。
「生存者の確認をしろ。一人残らず殺せ」
「報告です!」
戸惑いながら走ってくる。
「どうした」
「その…女性が眠っているのを発見しました」
「生き残りか?」
「どうも様子がおかしくて…」
ただならぬ様子に、殺せとは言えずに一言案内しろとだけ溢す。
残らず殺せ、という命令に反してわざわざ報告に来たのだから余程だろうと思ってのこと。
背後からの足音に歩く速度を落とした。
「離れないようにお願いします」
「分かっているとも」
崩れかけた建物は足場が悪く、首領の通り道を作りながら進んでいく。
細い隙間を通って直ぐ、その場所は案外近かった。
ぽっかりと瓦礫の山に出来た空洞。
どこからか射し込む月光が砂埃をはっきりと映している。
火の手は偶然回らなかったらしく、隅が黒く焦げているだけで灰色の世界。
一段高く積まれた瓦礫の上にAはいた。
余りに場違いな、異質な雰囲気に警戒し構える。
「……中原君、彼女に見覚えはあるかね」
今夜のリストに入っていたかどうかの問いに否と答える。
あんなものは、見たことがない。
異国風なドレスを身に纏い、目覚めるのを待つかのように仰向けで寝ている。
その奥には歪な鉄骨が刺さっていて、女を刺し貫いているかのようにも見えた。
「エリスちゃん?」
「佳い匂いがするわ」
酷く真剣な表情で近づいていったエリス嬢。
必死に手を伸ばす首領を抑える。
「綺麗! このヒト欲しい!」
「エリスちゃん、裏切り者かもしれないんだよ」
「お揃いのドレスなら来てあげてもいい」
首領は陥落した。
127人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時