検索窓
今日:6 hit、昨日:16 hit、合計:98,100 hit

第14話 ページ15





「随分と楽しそうだったな」

「中原さん程ではありませんよ」

「嫌味か? このまま帰ってもいいンだぞ」

「中也の生き生きとした姿を初めて見た」

「棒読みで感想文か何かか…」

信号待ちでげっそりと疲れた様子を見せるが、あれだけ動いておいて呼吸の乱れひとつないとは恐ろしい。

「雨が降るね」

気が緩んでいた。

灰色の街を車窓越しに眺め、ついいつもの癖で話す。

「降りだすのは夜遅くだって聞いたが」

「此方の天気予報は当たるの?」

「…さァな。俺には雨が降ろうが槍が降ろうが関係ない」

「聞く相手を間違えた」

では何故、夜遅くから降ると知っていたのか。

「まぁ…私にも関係ないしな」

そう呟いて興味が他に移る。

創業何年と旗のあがる老舗に到着した。

「欲しいものだけ買って来るけど、中也は?」

「車で待ってる。ゆっくり見てこいよ」

「分かった」

ゆっくり、と言うからには何か…ボスと連絡をとるなりするのだろう。

追求せずに車を降りて、湿った空気に身を晒す。

「……」

店内に入り、中也から此方が見えなくなってから周囲を見渡す。

「あ」

夕方だからだろう。

少し空きの目立つ棚の下段に見つける。

「すいません、あるだけ買いたいのですが」

店員さんは驚愕していたけれど、閉店時間も近いということでかなりの量を快諾してくれた。

わざわざ奥で段ボールに積めてもらい、笑顔でお礼を言われる。

二段になった段ボールは視界の確保がギリギリだった。

フロント硝子越しに中也と目が合い、また驚愕された。

「手前…」

「満足しました。早く帰ろう」

「こんな量、一体何を買ったら」

段ボールに伸ばされる手を取った。

「金平糖」

「…、金平、糖?」

「金平糖」

星を砕いたような砂糖菓子。

「いま開けて見てしまうと食べたくなるので。爆弾ではないという証拠は領収書で」

「金平糖だけでこの額……これが一番に浮かんだ欲しいものか?」

「これが私の欲しいもの(・・・・・)だよ」

探しものは、まだ手掛かりだけ。

「流石は老舗。自前の工房で手作りだそうで粒が大きい、一級品」

満足そうな私に納得したらしい。

「休暇の目的は達成出来たか」

「それはもう。ありがとう中也」

楽しかった、と伝えれば彼は鼻で笑う。

「手前には未だ働いて貰わなきゃならねェからな」

「そうだね」

まだ、帰れないから。

「行くぞ」

「はい、中原さん」

第15話→←第13話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (70 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
127人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。