第14話 ページ15
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「随分と楽しそうだったな」
「中原さん程ではありませんよ」
「嫌味か? このまま帰ってもいいンだぞ」
「中也の生き生きとした姿を初めて見た」
「棒読みで感想文か何かか…」
信号待ちでげっそりと疲れた様子を見せるが、あれだけ動いておいて呼吸の乱れひとつないとは恐ろしい。
「雨が降るね」
気が緩んでいた。
灰色の街を車窓越しに眺め、ついいつもの癖で話す。
「降りだすのは夜遅くだって聞いたが」
「此方の天気予報は当たるの?」
「…さァな。俺には雨が降ろうが槍が降ろうが関係ない」
「聞く相手を間違えた」
では何故、夜遅くから降ると知っていたのか。
「まぁ…私にも関係ないしな」
そう呟いて興味が他に移る。
創業何年と旗のあがる老舗に到着した。
「欲しいものだけ買って来るけど、中也は?」
「車で待ってる。ゆっくり見てこいよ」
「分かった」
ゆっくり、と言うからには何か…ボスと連絡をとるなりするのだろう。
追求せずに車を降りて、湿った空気に身を晒す。
「……」
店内に入り、中也から此方が見えなくなってから周囲を見渡す。
「あ」
夕方だからだろう。
少し空きの目立つ棚の下段に見つける。
「すいません、あるだけ買いたいのですが」
店員さんは驚愕していたけれど、閉店時間も近いということでかなりの量を快諾してくれた。
わざわざ奥で段ボールに積めてもらい、笑顔でお礼を言われる。
二段になった段ボールは視界の確保がギリギリだった。
フロント硝子越しに中也と目が合い、また驚愕された。
「手前…」
「満足しました。早く帰ろう」
「こんな量、一体何を買ったら」
段ボールに伸ばされる手を取った。
「金平糖」
「…、金平、糖?」
「金平糖」
星を砕いたような砂糖菓子。
「いま開けて見てしまうと食べたくなるので。爆弾ではないという証拠は領収書で」
「金平糖だけでこの額……これが一番に浮かんだ欲しいものか?」
「これが私の
探しものは、まだ手掛かりだけ。
「流石は老舗。自前の工房で手作りだそうで粒が大きい、一級品」
満足そうな私に納得したらしい。
「休暇の目的は達成出来たか」
「それはもう。ありがとう中也」
楽しかった、と伝えれば彼は鼻で笑う。
「手前には未だ働いて貰わなきゃならねェからな」
「そうだね」
まだ、帰れないから。
「行くぞ」
「はい、中原さん」
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時