双黒に嘘をつく【文スト】 (ページ11)

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第10話　中原side ページ11

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「外、ですか」

奴は何を言われたか分からない、と言う風に繰り返した。

首を傾げている様はとても成人しているようには見えない。

「そうだ。手前も欲しい物とか食べたい物があンだろ」

「……あ」

「あ？」

黙り込むかと思っていたが、奴は思い当たる物があったようで両手を合わせた。

余程欲しいものなのか、既に瞳が輝いている。

普段は飄々としているためその表情が珍しくて、思わず食い入るように見つめてしまう。

「あります。欲しい物」

ありません、そんな暇があるなら仕事をします、と返ってくると勝手に予想をしていたから、それがどんなものなのか酷く気になった。

「じゃあ明日の仕事は休みだ。手前には休暇を呉れてやる」

久々に外に出てこい、と続けると奴はまた不思議そうにぱちぱちと目を瞬く。

「この間も外に出たばかりですよ」

「あ？ …それは制圧のこと言ってンのか」

「体を動かせて有意義な時間を過ごしました」

本気で言ってンのか此奴。

「手前はもっとこう……欲はねェのか」

「ふふ、ありますよ？」

笑った。

口に手を当てて、笑っている。

「ただ折角、部屋から出ないで仕事してお給料が貰えるんです。良い上司にも恵まれて、これ以上何を望みましょうか」

前の職場が劣悪だったとかではないですよ、と付け足した奴は視線を戻して茶を淹れ始めた。

「ですが、そうですね。街を見てみたいとは思っていましたから、休暇は頂いても宜しいですか」

「…決まりだな」

街を見てみたい。

何かを懐かしむような表情には、触れることが出来なかった。

「わざわざ車を出して頂いて」

「休暇中だ。そういうのは良い」

本気で申し訳なさそうにする此奴の頭にはきっと、上司を足にするなんてという考えで埋まっているのだろう。

「大体、同い年だろーが。同い年相手によくそこまで畏まれるな」

上司だから？監視役だから？

芥川や姐さんにはあんなに親密になって話しているのに。

「敬語使われンのは気持ち悪い。普通に話せ」

「勤務中もですか」

何故、嫌そうな顔をする。

「普段から敬語を使っておけば、いざというときもボロが出なくて済むじゃないですか」

「手前は前の上司との間に何があったんだ」

嫌そうな顔が、困った顔になった。

「悪い。忘れて呉れ」

「いえ……前の上司は大層モテる人で」

同い年でタメ語で話していたら修羅場に巻き込まれ何度か包丁が。

遠い目をする此奴に心底同情をした。