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「そう、君は晴れて自由の身になった訳だね」


おめでとう、とすら言い出しそうな雰囲気に

私も口角をあげて答える。


「えぇ。けれど此れでもモテるんでね。


さっきもお宅の幹部に求婚されたところですよ」


「悪い話じゃないだろう。


どうだい、式場の手配なら今すぐにでも」


「あは。後ろから刺される覚悟が

出来たらお願いするかもしれませんね」


「…嗚呼、君も怪我人かい」


どういうことだ、と責めるような

中也の視線を背中で感じた。


大丈夫だと答える代わりに片手をあげて

黒服の用意してくれた豪奢な椅子に座る。


「其処に遠慮無く座れるのは君ぐらいだよ」


「正直もう立ってるのも辛かったンですよね。


気付かれたのは今が初めてなんで

大したことはないんですけど」


「……探偵社も知らない、と」


獲物を捕らえたような鋭く冷たい目が開眼する。


治らない(・・・・)のを知るのは彼だけですし」


「其の彼も……今や見知らぬ他人か」


私は笑うだけで答えない。


「其れより、怪我によく気付きましたね」


「隠し方がそっくりだからね」


誰に、と言わない所が森さんらしい。


「幹部の席は空けてある。


何なら……君が座ってくれても善いんだがね」


「真逆、本当に其の話の為に呼んだんです?」


「勿論、襲撃の横取りについてもある。


だが、鎖から放たれ野放しになった優秀な君を

今勧誘しないという手は無いだろう?」


「元 最小年幹部の席は重過ぎますよ。


それに…私に賭けるチップも大き過ぎる」


自分の価値、浮かれられるほど高くはない。


「私を手に入れたからって

付いてくることは無いんですよ。それどころか_」


仮に、想い合っていたとして。


敵対したのなら。


「私が殺しますよ。


其の時こそ、心中しますから」


仲良く死ぬ訳ではない。


本気で殺り合ったなら、先に待つのは二つの死。


どちらかだけが生き残る事もなく、

どちらとも生き残る事がない。


「まァ今は他人なんで。


此処に居る私も只の花屋なんですけどね」


おひとつ、如何です?


薄桃色の椿。


控えめに愛すぐらいが、嘗ての人には丁度善い。


「お代の分だけ咲かせますから。


どうぞ、御贔屓に」

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名も知らぬ人からの微笑み


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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

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