糸し怪し【文スト】【太宰治】ー耽溺ー (ページ7)

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「…………」

只ひたすらに、黙々と荷物を詰める。

本当は目覚める前にやっておくべきだったのに、

そうしなかったのは、面倒だったからだ。

ひょっとしたら、若しかしたら、

荷造りをしないで済むかもしれなかったから。

「……馬鹿」

吐いた言葉は自分に向けてか、其れとも。

玄関先に詰んだ段ボールの数は

想像していた以上に少なくて、少し笑えた。

足音に振り返る。

「態々、幹部様を呼んで悪いね」

「本当にそう思ってンのかよ…」

眩しすぎる髪色、洒落た帽子を指先であげて

不機嫌そうに牙を剥く。

「あは、思ってる思ってる。

急な電話一本で車寄越して呉れて有り難う」

「誰かさん(・・・・)が潰しに行く予定だった

組織を木っ端微塵にしたからな。時間が空いた」

「グッドタイミングって言うんじゃない？

誰かさん(・・・・)には感謝しないと」

名も知らぬ誰かに有り難う。

暫く私の顔を見詰めていた中也は深く息を吐く。

「青鯖が来る前に行くンだろ。乗れ」

「助かるよ」

「荷物寄越せ」

「便利な異能力だね」

「引っ越し業者じゃねぇんだぞ！」

「ｧｲﾀｯ＿褒めたのに殴られた？！」

「嫌みかこの＿＿っ、……」

ハッと気付いたように中也は口をつぐむ。

其処まで神経質にならなくて善いのに。

「私は何処に乗るの？運転席？」

「今のお前にはぜってぇハンドル握らせねえ」

「じゃあ中也の運転か。久し振りだね」

心置き無く助手席に座れる。

安全帯を締めた私を一瞥して、

無言のまま滑らかに発進する。

「店でいいンだろ」

「分かってるならどうして角を曲がってるのかな」

「誰かさん(・・・・)が首領に呼ばれてんだよ」

「えぇ…心当たりが有り過ぎる」

そんなに苦い顔をしていたのだろうか。

笑った中也が一転、真剣な表情になる。

「彼奴が出し抜かれたって事は

相手も相当な殺り手だ。うちも厳戒体制で＿」

「あは…嗚呼、ごめん、ふふ、あははは」

毒気を抜かれたような表情の中也が幼く見える。

「あは…はぁ、ごめん。

相棒を高く買ってるんだなと思ってさ」

「……手前もだろ」

「＿＿＿＿」

その反論に、口を閉ざす事しか出来なかった。