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目覚めた貴方は酷く冷たい目をしていた。


隙だらけに見えて隙なんて無い、

私の一挙一動、呼吸までも見逃さない。


母親とはぐれた迷子のような顔をして、

生きていたくないと嘆きながら

誰よりも冷静に現実を見極めようとする。


「私の事だけ知らなかったよ」


あっけらかんと言い放った私は

皆の顔を見て不思議だな、と他人事の様に思う。


此れだけ心配してくれているのに、

当の本人は大して気にしていないから。


「普通に会話しただけ上々かな。


明白に拒絶、はしなかっただけだろうね。


其れよりも情報収集を優先したんだと思う」


目覚めた彼の側に居たいと望んだのは私。


目的が果たせて善かった。


「福沢さん、此れ。退職届です」


「………」


「名前、書いちゃってあるんで

早急に処分か、厳重に保管お願いしますね」


「……本当に、辞めますの?」


荷物の整理を手伝う手を止めて、

セーラー服の可愛い妹は問うてくる。


「最初から、そういう約束だったから」


何を今更、と笑ってしまう。


「それに……」


異能力が効かないからと前に出た彼が、


真に目覚めたときにどんな反応をするのか。


今はそれが見たくて楽しみだから。


「私を呼んだのは彼。


此処で終わるなら、

最初から其の程度だったって事」


誓約書もない、拘束力もない、

隣にいようという無期限の誘いの言葉。


いつかは、否、今日、終わりが来る。


「まぁ探偵社なら必要無いと思うけど、

依頼されたら贔屓にするよ」


もう此処には来ないけれど

私のもとに来るのなら構わない。


知っているのは、与謝野ちゃんと社長だけ。


乱歩は列車に乗れないから…知ってはいるけど。


「…巻き込んで、悪かったと思ってる」


謝罪の言葉を口にした。


知らない人の涙なんて、戸惑うだけだ。


知らない人は何処までも知らない。


知っている皆の前ではせめて、

ほんの少しの本心は伝えておきたい。


「…そろそろ来るかな」


賢い貴方ならきっと、なんて

希望的観測はするだけ無駄だと思い込んでいる。


「ねえ乱歩」


「此れで借りは返すから」


「あは、頼りにしてるよ。名探偵」


陽に翳したビー玉のような、

美しく綺麗な翡翠色の相貌。


キュっと寄せられた眉に思わず苦笑する。


そのとき足音が、探偵社の扉前で止まった。


「鏡花、お菓子を食べ過ぎないようにね」


最初の一手。


舞台が台本通りでは面白くない。

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ラッキーアイテム

名も知らぬ人からの微笑み


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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

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