糸し怪し【文スト】【太宰治】ー耽溺ー (ページ27)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:13,592 hit

・　谷崎side ページ27

・

『細雪』

「谷崎くん、此の前の事件の調査書貰えるかな」

「あ…はい。此方ですね」

「有り難う」

優しく、仕事が丁寧で早い。

瞬き一つでコロコロと変わる表情は

基本気怠げで愛想は控え目。

武装探偵社でも屈指の戦闘能力を誇る。

「あー…死んでたんだぁ…」

人の生き死にも特売品の広告を見るかの様。

「驚愕しないんですね」

「毎日何処かで人は死んでいるんだよ？

寧ろ誰も死ななくなったら

そっちのが私は驚愕するけどね」

厭、そう云う事を言いたい訳じゃないんだけれど。

Aさんの理屈は簡潔で難解。

何時だったか、賢治君も加えて

町で起きた交通事故を調べた事が有る。

「依頼者は二十代の女性、

自転車に衝突され携帯端末を全損…

…本人は無傷。あら、善かったね」

「此のお姉さんと自転車のお兄さん、

御近所でも有名な仲悪しさんなんですよね」

「な、なかあしさん？」

初めて聞く単語を思わず聞き返すと、

向かいに座るAさんも片眉をあげている。

賢治君は牛丼を掻き込んで頷く。

「行く先々に現れる、昇降機に乗らせない、

待ち伏せしている、騒音で迷惑している、後は…」

「賢治くん、頬にご飯粒付いてるわよ」

「ほえ？ありがとうございますAさん！」

微笑むAさんとにこにこと笑う賢治君。

若しかしなくても空気？

「賢治くん。男性側の被害状況を教えて呉れる？」

「はい！全くの無傷！携帯端末は全損です！」

「あは。解っちゃった」

パフェを食べ終え、

用は済んだと言わんばかりに立ち上がる。

「要するに絶好の機会(チャンス)。

両片想い、正面から往くには恥と自尊心が邪魔、

陰からでは満足出来ず相手の周囲へ牽制、

顔を合わせれば想いよりも口が先に出る。

事故(・・)の負い目(切っ掛け)があれば

相手が下手になって親しくして呉れる…

処が携帯端末を二人して破損、

此れは二人で買いに行って互いに弁償ね」

「事故じゃない、って事ですか」

「互いに驚愕させようとした偶然の重なりね。

賢治くんの事お願いよ」

眠る賢治君とボクを残して遠くなっていく背中。

結婚報告が揃いの端末の写真と

送られてきたのは其れから直ぐの事だった。