居酒屋妄想日記 ３冊目

金魚すくい ページ45

〆．



「智洋先輩、何からしましょう？」



緑「んー……お腹減ってる？」



「まだですね」



緑「ほんならまずは遊ぼ！金魚すくいしよや」



「お、私けっこう上手いですよ」



緑「ほんなら負けた方なんか奢りで」



「ふふ、燃えますね！」



……いや、寧ろ、ここであえて負けて、いつものお礼の意もちょびっと込めるのはアリ？



普段奢ってもらうことばっかだから……



いや、でも勝負で手を抜くのは失礼………！！



緑「A〜？」



「智洋先輩………手加減は無用ですからね！」



緑「お、本気やな」



智洋先輩にかっこいいとこ見せたい。



多分、智洋先輩も同じことを思ってるはず。



負けられない戦いだ…。



意気込み、どの屋台でやるか迷っていたら、やっぱり目に入るのは女性の視線。



女「あの人かっこいいね」



なんて………智洋先輩は顔だけじゃないんだよ。



ちょっと苛立っても、それは誰にも届けることが出来なくて。



女「でも手繋いでる。やっぱ彼女いるよねぇ」



過ぎゆく声に、ただ安堵した。



やがて智洋先輩は「ここにしよか」と適当な屋台の前で止まる。



緑「おっちゃーん、二人〜」



男「あいよ、四百円ね」



さらっとお金を支払ってしまう智洋先輩に、ちょっとあたふた。



こういう大人の余裕は、たった一歳の差で酷く大きく感じてしまうものなのだろうか。



……ともかく、今は勝負だ。



ポイを持って、いざ。



「……智洋先輩」



緑「ん？」



とはいえ、お喋りはしたい。



「最近思うんですよ。私、本当にみんなを幸せにできるのかなって」



緑「……ん？」



「きっと、みんな待っててくれているんですよね。私が答えを出すのを。……なのに私、決められなくて」



心がもやもやしてる時ほど、物事はうまく進んだりする。



本題は解決しないのに、余計なことばかりが次々とスッキリして終わる。



………めっちゃ金魚すくえてる。



「智洋先輩のことが好きで、でも智洋先輩のことだけが好きなわけじゃなくて。智洋先輩は、今どんな気持ちで私の隣にいますか？」



まだあなたを選べないのに、あなたを見つめる視線に嫉妬したり、手を繋いで歩いて幸せを感じる私は贅沢でどうしようもないやつだ。



じゃんじゃんボウルの中に流れ込む金魚。



緑「せやなぁ……」



聞くのが怖くて、ポイを持つ手が震えた。



ワガママでごめんなさい。



〆．

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