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おにぎりの最後の一口を名残惜しく口に放り込み、
『ご馳走様でした!ほんまに助かりました…貴方様は命の恩人です』
と五体投地する勢いで店員さんにお礼をする。
「いや、大袈裟やって。顔上げてや」
少し引き気味に答える店員さん。
『命を救ってくれた神に向ける顔などありませぬ』
「俺がいつから神になったんや…」
『私をこの席に座らせたあたりから』
「具体的な説明をどうも」
なんてくだらない茶番をして私は席を立つ。
『ほんまにありがとうございました。えっと、店員さん?やのうて店主さん?』
こんな時間まで残ってこんな見ず知らずの私に最後までおにぎりを作ってくれたわけだから恐らく店主さんなのだろう。
『店主さんの作るおにぎり、温かさと懐かしさがあって、それでいて幸せな気持ちになれる人生の中で1番美味しいおにぎりでした』
そこまで言い切ってからあまりに昂って言い過ぎたと自覚する。
恥ずかしくて途端に顔が熱くなった。
さっきから店主さんは黙ったままだし、あまり目を合わせられなくてどんな表情してるかも分からない。
『す、すみません!こんな見ず知らずの人間から言われても何も嬉しくないですよね…』
「嬉しい」
『え?』
驚きで咄嗟に顔を上げる。目の前にいる店主さんとバチッと目が合う。
「めちゃくちゃ嬉しいに決まってるやん。こんなにべた褒めされたの、生まれて初めてや。ありがとうな」
そう言ってまた花のような笑顔を咲かせる。
その笑顔に息を飲むことしか出来ない。くらくらする。
「それと、確かに俺はここの店主やけどちゃんと名前あんねんで」
カウンターから少し身を乗り出して更に顔を近づけてきた店主さん。
「俺は宮治って言うん。ちゃんと覚えておいてな」
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作者名:るた | 作成日時:2021年10月12日 0時